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「貴方は…ロダンさん…ですか…?」
男は厳しい顔をしながら、いかにもと返事をした。
「私を必要とするならば一戦交えるというのは当然であろう?アトランティスよ」
「…!私を知って…?」
ふんっ!とロダンは拳を構え、アトランティスに向かって殴りかかった。寸前でアトランティスは横に避け、砲撃を放つ
しかし、ロダンの動きは鈍い。ロミオは足を狙撃していき、アトランティスをサポートした。
ちらっと見渡すと威勢よく向かったイザナミが長剣を地面に突き刺し、その戦を見据えていた。
俺はそれを舌打ちをした。なんだこの女、アトランティスが不利だと分かっているのにこの態度なのかと
木に火は有利、それは自然の摂理であって。協力するだの言ってたのは何だったというのか

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「そなたは考えていたのではない、悔いていただけに過ぎない。そのはっきりした答えはあの浜辺の先を進めば分かる」
「浜辺?見る限り、少し苔の生えた場所が広がっているようですが…?」
そこだ、とイザナミは頷いた。アトランティスは俺を見て窺うような表情を見せた。
「お前の記憶が少しでも復活する可能性があるなら協力しよう」
「あ、ありがとうございます…!」
「なら早速向かおう、この世界はいつだって不安定だ。潮が満ちてしまえば次に行けるのはいつかは分からんぞ」

少し進めば砂浜から一気に苔がびっしりと生えた場所になった。しかし苔が生えているとはいえ、通り道はあるらしかった。
「これは…過去に誰かが来た、ということになりますね」
苔が薄い部分、濃い部分と差があるのはきっとそのせいだ。けれども薄い部分が目的地となる場所かというとそういう訳でもないのだろう
「お前が忘れていたのは“考える”ということだ、それをよく理解している者と一戦交えてもらう。見事勝利を収めることが出来たなら自ずと“考える”ことが出来よう」
「“考える”…こと……ですか…」
「もしかしたら、考えていたつもりになっていたのかもしれないな」
俺がそう言うと、アトランティスは唸った。反応としては間違っていない。“考える”こと、とは一体。

「油断するな、私達は余所者扱いだ。いつ襲われるか分からん……そらみろ!」
イザナミが突然長剣を横に振り切ると、キノコの形をした被り物をして髭を生やした男が厳しい表情をして立っていた。
「何をしに来た?悪い事は言わん、さっさと帰れ!この先を進むというならば無事に帰れる保証はないぞ」
「ロダンに会いに来た、私達の用はそれだけだ」
「ロダン様に!?ならば尚更のこと、さっさと帰…」
ブン、と彼女は剣を構えた。火が散り、苔が所々燃えて黒くなった。
「構わん、来い。どう言おうとロダンに会う、それだけだ」

イザナミは何者なのか、名前は何となく聞いたことがある気がする。けれどもこの頼りない記憶である限り、定かではなく
ちら、とアトランティスを横目で見れば他にも出て来たキノコの男に対して構えていた。
「私は……私は!“考える”ということを理解するためにも負けるわけにはいかないんです!」
彼は手から発動した水の砲撃を放ち、キノコの男達を打ち飛ばしていく
(……マズい)
ロミオはアトランティスの後を追い、突進して来た牛を躱しながら狙撃しつつ近付いた。
「簡単には通さないわ」
フードを被った青い女がゆらりと現れ、周囲からは木の魔力を纏った牛やキノコの男、サボテンなどが俺を囲む
「くっ」
このままでは間にあわないかもしれない。それにしたって彼も知っているはずだ、俺にもいえることだが不利な属性関係にあると
その時だった、ドスンと大地が揺れた。はっ、として顔を上げると緑一色の大男が着地したところだった。

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「俺は、ずっと、捜してる人が居るんだ。でも、名前しか、覚えていなくてな…好き、だったと、記憶にはあるんだが……」
一目惚れしたはず、なんだ。でも、顔が思い出せない。とても愛しかったはずなのに、名前しか分からなくて。好きなのに、そんなのおかしいに決まってる。
「何だか素敵ですね…愛しい方をお捜ししているなんて、きっとジュリエットさんもロミオさんを待っていると思います」
「…どうだかな……名前しか覚えていないなんて、女性からしたら有り得ないとか思うんじゃないか?」
夢ではぼんやりと姿が出て来るのに、起きれば名前しか覚えていられないなんて。ジュリエット、お前に会えば何か分かるのか…?
不思議とモヤモヤした気分ではないのがまた疑問でもあった。俺にどうしろというのだろう、何をしたらよいのだろう

「私も、ロミオさんと同じように導いてくれる名前だけは記憶にあるんです。ただ、それが────。」
言葉が切れた、途端に気まずそうな雰囲気になった。どうした?と促せば、渋々口を開いた。
「女性ではなくて、男性のようなんです。何か私に喋り掛けて来るのですが……起きた時には、もう覚えてなくて」
「そう…なのか」
俺と同じように夢の記憶が定かではないが、男が何か喋り掛けて来ることまで俺よりはっきりしているみたいだった。
兎にも角にも、お互い思い出せないのではどうしようもなく。しかし、ずっと此処に居ても何も解決はしないだろう

「アトランティス、お前は陸の上で生活は出来ないのか?」
再び水に触れている様子を見て何となくそう思った。少しでも触れていれば問題はないのだろうか
「出来なくも、ないですが…海に居ると、悲しいです。でも、海に居ないと苦しいです」
「なんだそれは」
分かりません、と苦笑される。俺は海の中で生活は出来なさそうだった、そもそも人魚でもないしな
(アトランティス、か……)
膝まで海に浸かっているアトランティスを見ながら考えた。記憶がはっきりしてしまえば、此処がどこなのか、彼が誰なのかも分かるのだろうか
疑問はやはり尽きそうにもなく、だからと言って何もしない訳にはいかない。お互いの共通点は夢と記憶、という点だけだった。
(記憶が何かの鍵になっているとしたら、ただの夢ではないのかもしれないな)
この世界自体もよく理解出来ていない以上、肯定してしまってはいけないだろう




「アトランティス、俺に協力してほしい」
え?と彼は振り返った。唐突にこんな申し出する方がおかしいだろうか
「せっかくの縁だしな、俺もお前に協力出来ることなら協力する」
「そうですね…ロミオさんが宜しければ」
「よし、決定だ」

そうして俺とアトランティスの、目的が曖昧な旅が始まるのだった。


それで、と俺は口を開いた。
「これからどうすれば良いだろう?」
「…手掛かりはあるようでないですからね」
「何しようにも出来ないな」
蒼い青年2人、海の浜辺で棒立ち。第三者からしたらきっとシュールな図になっていることだろう
突如、アトランティスが右手で左腕を掴みながら手の平を構えて止まって下さい!と俺の背後を睨みながらそう言い放った。
考え事をやめた時、ざくざくと砂の音も止んだ。やや振り返ると全体的に紅い女が立っていた。
周囲には勾玉がふよふよと浮かび、枝分かれした不思議な形をした長剣を持っていたのだ
「そう警戒するな、私はイザナミ。そなた達をアド…バン?アド……バイス、そう、アドバイスしに来た!」

(アドバンスって言おうとしたな)
(横文字を使おうとなされたのですね…)

「それで…アドバイスとは一体何だ?」
「アドバン…ス?違った、アドバイスだ!そなた達も迷える者達とお見受けした。誘導するが務め、そこの男!」
ビシ、と指を差されたがほぼ同じ位置に居るがためにどちらか分からない
「「どっち!」」
「そっち!ええと…そこの魚男か」
「さ…魚男とは失礼な、私にはアトランティスという名前があります!」
手をわなわなとさせている。内心笑ってしまったのは心に秘めておこう
「アトランティスよ、そなたは海に身を潜めて暮らしていたようだな。長く独りで居たがために考えることを忘れてしまっている」
え?と彼は怪訝な表情を見せた。俺もその発言に疑問を抱いた。そもそもアトランティスは海の中で考え、悔いているようにも見受けられた。

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