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「お帰り、部屋割はこれに書いてあるわ」
ジュディスが紙を少年に手渡し、それを見合う

(私は…)
なんと、モルディオと同室
特に反論もなく、どうやら相手側もそれで良いらしい

部屋に入ると、ゴーグルを外し、軽装なモルディオが居た。
「何よ、じーっと見て」
「あ、いや……すまない」

先風呂頂くわ、とモルディオはそう言って入って行った。


しかし、よくもまぁ、皆 私を、受け入れてくれたものだ

(でも……)

否定ばかりが頭を巡り、中々受け入れられない


(“レイヴンの仲間”だから、私は…)

居られるのかもしれない
というより、そうしか取れない

知っている
私の知らない所で私の――――。





「アレクセイ・ディノイア 我々は貴方を要求する」


私は剣を咄嗟に手にしたが、逃げる事は出来なかった。
(風呂場にはモルディオが居る……)

「我々は分かっている、あの少女を守りたくば貴方が身を差し出すべきだと」
風呂場から出て来たのは、まだ下着姿のモルディオだった。
口封じされており、その顔は羞恥と恐怖が混ざっていた。

「!! ――――モルディオを、離せ…!その子は関係ない!」
「聞けませんな、貴方が我々について来るならば聞きましょう」

私は手にあった武器を床に落とした。
それから両手を上げ、示した。

「潔いのは悪い事ではない、ならこの少女には手は出さぬ」
乱暴だが、モルディオは解放された。
代わりに、私は得体の知らぬ集団に従うしかなかった。








親友


『私はいつでもリタと仲良しで居たいです』
淡く、柔らかい 彼女が笑う

『親友、か…羨ましいな、』
拒否なのか、抵抗なのか、それとも、疎外…?




「っ!?」
喉がむず痒い、けど、そんなことより

(アレクセイが――――!)
部屋は真っ暗で、カーテンがひらひらとなびいている。

あたしは急いで服を纏い、皆に呼び掛けた。
「アレクセイが…拉致、されちゃって…!」
そう言うと、レイヴンが一気に青ざめた。
「……だ、誰に…!?」
カロルに問われたが、あたしは首を横にしか振れなかった。

「…バウルが掴んだみたい」
「迷ってる暇はねぇ、行くぞ」
ユーリに促され、一行はバウルへと乗り込んだ。

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頭を左右に小さく振りながら、私は後退した。
「私は――――……すまない、無理だ…」
震える唇と、手、足が… 始祖の隷長は視線を外さない。

「アレクセイ」
ジュディスが駆け付け、私に近寄った。
「大丈夫、怖がらないで
今は警戒心が高まっているだけだから」
微笑み、誘導してくれた。



吹き抜ける風に、目を掠めた。
今度こそ、私は行かなければならない

自らの手の甲に、片手を重ねた。

(イエガー……)
彼女達にも、しっかりと伝えるべきなのだ

強く、唇を結んだ。




トリム港に着き、同行者として少年とレイヴン
それからローウェル君がついて来た。

「孤児院?」
少年が首を傾げたが、その応えは
「あんたら…」
ローウェル君が呟き、はっきりとした。

「貴方は――――」
赤髪の少女 ゴーシュは細く睨む
緑髪の少女 ドロワットは構えた


私は深く、頭を垂れた。
「…墓参りをさせてくれ」

「俺からも、頼むわ」
レイヴンはそう言い、同じくした。
ローウェル君と少年は無言で従ったようだ。


風が抜け、その時間は随分長かった気がする。
「…頼む」
推すように呟いた。


「…分かった、来ると良い」
ゴーシュは歩きだし、ドロワットは微笑んでから後に続いた。

「――――大将」

行きましょう、と レイヴンは微笑んだ。
私はそれに頷いた。





孤児院の向こう側に、ほっそりと、静かに立っていた。
墓石があり、“Yeager”と刻まれていた。
その周辺にはキルタンサスの花がそよいでいた。

「………っ」

唇を噛み、墓に近付いた。
(イエガー……)

私が原因で、死んだ一人
レイヴンと、同じ道だった一人

遠くで、私を見る彼女達を守るために
逃げられることを選ばなかったのは、
彼が死を選んだからなのか、それとも――――

墓の下にはあのイエガーが居る。
もう、見ることはないのだ


静かに黙祷を捧げた。






「すまなかった」
再び、彼女達に深く頭を下げた。
「それと…本当に、ありがとう……」
「また、来たい時は来ても良いよん」
ドロワットがそう言ってにこにこと笑った。
「……い、良いのか?」
彼女達は頷いた。

「……ありがとう」
私を、こんな私を受け入れてくれた彼女達に感謝した。


今度来る時は花を用意してやろう



キルタンサスの花と共に――――。

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彼女は机に足を荒く乗せ、拳銃を私の額にぴったりと付けた。
「引き金を引いたらどうなると思う?」

しっかりと重いその拳銃には幾多もの命があった。
蘇って来るようで、悪夢だった。


『ワタシノイノチヲカエセ――――』


私は一度瞳を閉ざし、改めて彼女を見た。
それから彼女の手に自らの手を添えた。

「――――引いてみたら良かろう」

そう告げれば、彼女は拳銃を落とした。
ガシャン、と 重い音が鈍く広がった。

「……分かっておった、うちはもう、決別したのじゃ…」
息を一つ、呑んだようだ
「お前を…“仲間”とは……呼べん」

彼女の手を握り、込めた。

「呼ばなくて、良いです
私は貴方に恨まれても良い程のことをしました
ですから私は、それを背負う義務がある
貴方に殺されても、仕方ないと思っています」

彼女の眼には、光が無かった。
「…う゛、うぅ…ッ!」
光は、溢れ出るために存在した。

彼女は、崩れた。

「……………」
彼女を、抱き留めて謝ることしか出来なかった。

愚かな自分を何度も、何度も咎めた。



中々夜は寝付けなかった。
(…繰り返される……)
今のメンバーからの気持ちのこもった言葉に

(ダメだ、休みたい………)

ベッドに寝転がれば、それは深く沈んだ。
久々な個室で、窓に白く覗く大きな月
構わず手を挙げ、空を何度も掴む


(……今なら)


行けるだろうか





朝日が顔を出し、起き上がる
「―――……行きたい所があるのだが」
自由に行動は取れても監視はされているわけで
「……どこへ行きたいんだ?」
どうやらローウェル君が来てくれるらしい

「…トリム港に」
そう言うと、ローウェル君は眉を潜めた。
その様子を見ていたレイヴンは
「なら、俺も行きたいかな」
と、言い出した。
「うちも行くぞ」

「なら、皆で行った方が良いんじゃないかしら」
ジュディスがそう言い、皆賛成した。




始祖の隷長 その名はバウル
「さぁ、乗ってちょうだい」
ジュディスがそう言ったが

「――――……」

始祖の隷長を見て、立ち止まった。
遠くから、何度か見たことはあっても、こんな間近に見たことはなかった。
そしてまた、この始祖の隷長も私がどんな存在かは知っているはずで

「…ヴォオオ」

その始祖の隷長は唸った。
私を、読み取れない眼で見る。

(……、……見るな…っ)

靴が砂利と擦れた。

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