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「貴族街の方で、犯人が捕まったそうです」
そうなのか、と小さく答えた。
「それと、このお嬢さん 母親が大将と同じような被害にあったみたいで
打ち所が悪くて、母親は亡くなったそうです…」
レイヴンが近寄った方を見れば、あの少女が私の近くで寝ていた。
私の服を強く掴んだ間々、少女は寝ていた。

抱き寄せ、頭を撫でれば 少女は目を覚ました。
「あ……大丈夫っ?死んでない!?」
「大丈夫だ、もうしばらくこうしなくてはいけないが」
「…う、良かった…ぅあぁああっ」
私に泣き付き、レイヴンは苦笑した。
「……レイヴン、この子を連れて行ってくれ」
「え……っ」
「安静にする必要があるのよ、また後で会えるからね…」
レイヴンは少女を撫で、共に出て行った。


「アレクセイ…?」
静かにローウェル君は部屋に入って来た。
「…ローウェル君……」
近くの椅子に彼は座った。
「悪いな、こんなことになっちまって…」
いや、と 私は彼に微笑んだ。
「下町は…良い所だな……」
それ以降、記憶がプツンと途切れた。





『大将、あの辺りの下町って行った事 ありますか?』

『いや、無いな…どんな所なんだ?』

『子供達が懐いてくれるんですよ、もう可愛くて』

『…………』

『あれ、大将…?』





「!」

起き上がればくらりとする。
壁に頼り、変わっていない光景に溜息をついた。

「………」

あの少女は、周りの人達に支えられて これからも生きて行くのだろう
それは実に、微笑ましい事ではあった。
少女の事を考えていると、私はどうだっただろうか と考えてしまっていた。



私は貴族街に生まれ、周りから祝われた。
贅沢ばかりで飽きて、冒険なんてものもした。
しかし、自由はあまりなく 不満を漏らした。

やがて 世界の実態を知って、何とかしなければ と思うようになった。
皆が笑って、平和を共有する為には まず帝国を何とかせねばならない

強く願って、私は騎士団に入る事が出来た。
最も、貴族だから という肩書きだけで入隊にもまた苛立った。


外側からでは知ることが出来ない真実を目の当たりにした。
貴族からの兵は軽い巡回で終わり、後は平民の兵にお任せ命に関わる仕事は全て平民からの兵

無論、隊長も貴族の者
命令はいい加減で、貴族を贔屓した。

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「この人達はだぁれ?」
可愛いリボンを付けた少女はレイヴンと私に視線を向けた。
「こっちはユーリの仲間のレイヴンだよ」
「おっ、よく覚えててくれたわな」
レイヴンは笑い、少年を撫でた。
「シュヴァーンって名前の隊長さんだったんだよね?」
「そうねぇ、今は時々しか手伝えてないけど」

あぁ、シュヴァーンは確か ここらの下町をよく巡回していたな、と思い出した。

そう考えを巡らせていれば、服がぐいぐいと引っ張られた。
何かと思って振り向けば、少女が泣きそうな顔をしていた。
ローウェル君やレイヴンを見たが、二人共 他の子供に気を取られているようだった。

「……何だね?」
しゃがみ込み、少女の背丈に合わせた。
「あれ、風船……うぅっ」
指で示された場所を見れば、風船が木に引っ掛かっているようだ
私の身長なら簡単に取れる位置だ
少女に私は頷き、立ち上がろうとした時だった。

「!」

気がついた時にはもう間に合わなかった。
花瓶が、私に勢いよく投げられていた。
考える暇さえなく、少女を直ぐさま抱き寄せて庇うように身を縮めた。

その後、綺麗な音が響いた。


目を開け、少女を解放してやった。
「怪我はないかね…?」
「うん、……え、怪我してるよ!?ねぇ、ユーリ!!」
呼ばれなくても、ローウェル君は私に駆け寄っていた。

「アレクセイ、ちょっと来い!」
手を強引に引かれ、途中で女将に会った。
それから寝かされ、レイヴンも入り込んで来た。
「レイヴン、出来るだけの治療を頼む!ラピード!」
「ワウッ!」


直に花瓶の衝撃を受け、頭から血が流れていた。
何だか意識もよく分からない、視界も気持ち悪い

「ねぇ、治るの!?治るのっ!?」
この声は、あの少女の声か
はっきりしない視界で少女の姿を捉えた。

「…お嬢さん、私は…大丈夫だ……」
薄く笑えば少女は目に涙を溜めた。
「嫌だ!死なないで!やだ!!」
ひし、と 私の腕に力強く抱き着いた。
最後に覚えているのはそこまでだった。








「ん、ぅ……っ………?」
「大将…?目が覚めましたか…?」
視線を向ければレイヴンが心配そうにしていた。
「…あぁ、もう大丈夫…うっ…」
「まだ動かないで下さい、血が足りなくてすぐに貧血起こしますよ」
その言葉に頷き、再び横になった。

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レイヴンも、彼が救ったのだろうか

「…私は、君が羨ましいよ 私は、親友なんて以っての外
友達すら出来ない…可哀相な人間、とよく言われたものだ…」
「なら―――オレがあんたの友達だ
そりゃすぐにはなれねぇけどな、オレだって無理だ」

でも、と 彼は繋げた

「…段々と、なっていけばいいじゃねぇか」
「…魔導器があったから、哀れんでそう言ってくれているのか?」
「それもあるかもな……オレはあんたと似てる部分がある
だから、単純にあんたには死んで欲しくないだけだ」


罪を償って欲しいからな

と、彼は言った。


「…宜しく、頼む……私も、もう少しだけ…努力しよう……」

「あぁ」




心臓魔導器で同情されたのは悔しいが、
知らないより知ってもらった方が良い

先程の行動は当初よりも自殺願望が強くなっていた事を表していた。
私だって、罪を償いたいと思っていたのに


だけど、私には 友達が出来た
若い彼にそんなことを言ってもらえるとは思わなかった。

私の年齢で友達なんておかしいかもしれないが、
純粋に、嬉しかった。



「アレクセイ、魔導器のことはまた後で教えてくれ」

「…分かった」




「次の依頼はザーフィアス?」
モルディオの言葉に少年は頷いた。
「…というか、騎士団からって言った方がいいのかな」
「え!?帝国とギルドってまだそんなに仲良い訳じゃ…」
「意外とそうでもないみたい、協力的らしいわ」

へえぇ、と レイヴンが呟く
それでね、と 少年は続けた。

「たくさんあるみたい 片付けとか、魔物退治とか」
「専門だな?」
ローウェル君がクリティアの娘に振ると、あらあら と、彼女は首を傾げた。

「でも久々にエステルやフレンにも会えるかもしれないのじゃ~」
にっこりと少女が笑えば モルディオはそ、そうね と呟いた。

「なあ、ちょっと自由行動とらねぇか?久々の帝都だし、下町にも寄りてぇんだ」
「うん、急ぎじゃないからいいよ じゃあそこの宿で」
少年も多少疲れた様子でそう言った。
モルディオと少女もそれに頷き、宿へと向かって行った。

「アレクセイとおっさん、ちょっと来いよ」
にこにことローウェル君は笑いながら肩に手を回して来た。


「ただいま!」
ローウェル君が下町にある宿に入ってそう言うと、数人の子供が振り返った。
「あ!ユーリじゃん!ねぇ、ユーリが帰って来たよ!」
気がつけばローウェル君の周りには子供ばかりだった。

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