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振り返り、デュークの髪が揺れた。
「お前がそこで謝罪に行って、嬉しく思うのか?」
「嬉しいとか、そういう訳では…」


彼は私の胸倉を掴んだ。
「お前は死んだのだ、相手の幸せを願うなら姿を現す方が迷惑だろう」
「幸せ……」
彼は乱暴に私を押した。
足がよろけたが背後に壁があって良かった。


シュヴァーン、いや レイヴンの幸せ
それは私が彼の目の前に現れないということ

「……そうだな…」

虚しくなった。


「イエガーは死んだ
あいつの所なら構わぬ」

恐ろしい男だ、デュークは


「分かった…連れていってくれ」
「トリム港の孤児院だ、行くぞ」






私が居た場所はレレウィーゼ古仙洞だった。
小さな家があり、またそれは風を引き起こしていた。

「呼びましたか、デューク」
シルフが舞って現れた。

「トリム港だ」
「何しに行くのですか?」
デュークは彼女を睨んだ。
「用があるから行くだけだ」

強い物言いにシルフは一瞬だけ表情を変えたが、頷いた。
「分かりました」

風が体を巡り始めた。
「移動します」

まるで転送魔導器のような動きだった。






「はにゃ?」
「どうした?ドロワット」
ゴーシュが不思議な声に振り返る。
「あれって……」

指で示す方向を見ると白髪に赤い服の男性
それから隣には白いフードコートを翻す男性

「……イエガー様の…知り合い?」
「…だった、な…」

二人の元にデュークは歩いて来た。
「イエガーの墓はどこだ」

ゴーシュは彼を睨んだ。
「何の用で来た」
「拝んではいけないのか?」
ドロワットは彼女の隣に並んだ。
「拝む拝まないじゃなくて、隣のは誰だわん!」


デュークは私を見た。
私は戸惑った。

晒すべきか、否か


拝ませてくれるのは彼女達次第であるが
また彼女達も私を憎んでいるはずだ

しかし、ここで逃げるのか?


私はフードに手をかけ、顔を晒した。

彼女達は一度目を張ったが、それはまた厳しい顔に戻る

「…悪いが断る、なぜ貴方が生きているかどうかは聞きません
けれど、私達は貴方を許せそうにありませんので」
「もし、イエガー様が許してもあたし達は許せないのっ」

それぞれそう言われ、私は軽く俯いた。

「失礼した」
私は二人に会釈し、トリム港から離れた。



結局イエガーの墓すらも行けなかった。
いや、こんな奴が急に現れて変な申し出をする方がおかしいか

「…すまない…」

その一言は誰にも届かなかった。

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酷く傷付いた気がする

気がするだけかもしれないが


着ろ、と示された服を見れば赤い服
それは私がかつて着ていた服に似ているような気がする

そうか、彼もどちらかといえば赤い服だ
全て着替え終えるのに時間が掛かった

左手首を強く握られて骨はあまり動かないし
両足すら頼りにならず、まともに動かせるのは右腕や右手のみ

何とか着替え終わると、狭い部屋に風がおこる


「アレクセイ」
姿を現したのは妖精のような姿の小さい精霊

「覚えていますか?以前はクロームと名乗っていました」
「…ああ、……何となく…」

褐色肌で青い髪のクリティア族の女性で、私の秘書をしてくれていた

「君は…エルシフルの娘、だったか……」
「ええ、でもそれは以前の私」

クロームは浮遊しながら私に近寄った。
「これからシルフと、呼んで下さい」

シルフ、と呟けば頷いてくれた。
「あの、頼み事があるのですが……」
その顔は少し辛そうに見えた。

「…私に出来る事ならしよう」
シルフは近くの机に降り、私に向き直った。
「デュークを、助けて下さい 私はもう随分昔から彼の苦しむ姿を見て来ました
彼は私の気付かない場所でとても辛そうにしているのです」

シルフは、以前のクロームの面影が残っているように感じた。
秘書だった時は軽く微笑む事はしてくれた
今思えば大体が無表情に近かったかもしれないが

「…私は…―――」
「貴方しか居ないんです」

彼女は私に助けを求めていた。
それは見た事なくて

「彼の支えになって欲しいんです
デューク次第だということも分かります…」
「…ああ、構わぬ」

そう言うとシルフは微笑んだ。


痛んだ体中をシルフはあっという間に治してくれた
体がスッ、と楽になって どうやら動けるようになったみたいだ

しかし、左手首だけは 微妙な痛さが残った間々だった。







「…治してもらったのか」
辛そうな顔をしない私にデュークは問うた。

「ああ…非常に感謝している」

そういうと鼻で笑われた。
「…お前には自殺願望がないのか
あったら殺してやろうと思ったのだが」

「……私だけは、そう思ってはいけない…そう考えただけだ
生きてしまったのだから、あの二人に謝るまでは死ねない」

デュークは目を細めた。
「どこまでお前は愚かなんだ、謝ってどうする」
「―――――……どういうことだ?」

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今は凄く怖い

彼らは私を止めるべく、立ちはだかるイエガーに遠慮しなかっただろう
世界を危機に追い詰めるようなことをしたのだから

もし、後一度だけ
一度だけ許されるならば

彼の顔を見ておきたかった


私は本を閉じた。


シュヴァーンは私を憎んでいるはずだ
心臓魔導器を埋め込んでから彼は変わった

私が言える立場ではなかったが

生き生きとしていた碧の澄んだ目は明かりを無くした。
表情も固くなり、パターン化していた。

あの時は気付かなかった。

彼はある時期、本物の道具になろうとした。
私の酷い暴力が怖くなったのか、どうなのかは分からないが

それでも、ユーリ・ローウェル一行に影響を受け
彼は私の知らぬ内に道具になることをやめた


シュヴァーンを生き埋めにし

新しい名、レイヴンとして


そういう意味でシュヴァーンを本来生き埋めにしたのも私



シュヴァーンも

イエガーも


私の手で殺したのと同然だった。



今更だが
本当に悪い奴だ


「洒落にならんな……」


心臓が、偽の心臓が
憎たらしく思えてきた。

彼らも、そう思ったのだろう



不運なことに私は生き返ってしまった。
いや、逆だろうか 正解なんて分からない




今はデュークが帰って来るのを待つしかない
まともに歩けやしない体で出ても死ぬだけだ

せめて、あの二人に謝るまで、死ぬ訳にはいかないのだ


「…は…っ………」








ぺちり、と 軽く頬を叩かれる感じがした。
目を覚ませばデュークが私を見ていた。

「デュー、ク………」

「よく死ななかったな、流石というべきか」

デュークは私の左手首を力強く握った。

「ぐあ゙ぁっ!!」
みし、と音が鳴った。
骨が悲鳴を上げているようだ

それから彼は手を離した。
だらりと私の左手は垂れた。

「……星喰みは消えた」

痛みに息を荒くしつつも、耳は傾けた。

「ユーリ・ローウェル達の手によってな」

どうやら変わった事はそれだけではないようだ
魔導器は消え、精霊が生まれ...


「お前は世界を変えられると信じたのか?」

傷が

「…ああ……」

えぐられて

「…星喰み復活、か……愚かな事をしたな
本を読んだ事で深く理解したろう?」

彼は振り返って私を見た


「お前は最悪な死人だと」



アレクセイは頷いた。

「…そうだ私は 最悪な、死人だな」

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