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これはとある宿屋での出来事だった。
業魔というよりはロクロウのことが俺には分からん、一体何を考えていやがるんだ


「なあ、ところで聖隷って───」
そうロクロウがふと言いかけた所で彼は口を閉じた。
やはりやめておこうと彼は呟いて踵を返したが、待て待てと俺は肩を強めに掴んだ。
「そこまで言っておいて言わないってのはどうなんだ、あ?」
「お前は借金の取り立て屋かよ」
「取り立ててもいないしさっさと続きを話せ」
「それは断る。殴られるがオチだからな」
余計気になるように言い残している。明らかに俺が気になって仕方がないのを分かってて言ってやがる。
「殴……らない保証はないな、内容によるとしか言えん」
「殴られる可能性が高そうなら言わなくて正解だろう?」
このループ、ロクロウは少しニヤニヤしながらその場を離れようとするがそうはいくか
「………分かった。殴らんから言え、怪し過ぎる」
「失礼だな、俺はただアイゼンの自慰行為を見てみたかっただけだ」
拳を顔面へ入れる前に寸前で止められた。明らかに怒りを隠さない俺にロクロウは肩を竦めた。
「ほら!やっぱり殴ってきやがった」
「当たり前だ!殴らせろ!!」
相当騒がしかったのか、部屋にライフィセットが急いで入って来た。
ロクロウのいいところに来た、と言わんばかりの表情に一瞬隙が出来た。
「どうしたの!?……だ、大丈夫?」
「お、ライフィセット!実はアイんふごぉ」
「バカか!お前はバカか!!」
すぐさまロクロウの口を上から塞ぎ、無理矢理引き摺って行く
聖隷術を無駄遣いしながら鎖を上手いこと繋いで外まで出て行く

「ぶはっ……やめろよな〜 息が出来なくなるところだったぞ」
口をへの字にしているが足首の鎖だけは解いてやらない、絶対に解いてやらない
「ライフィセットに何を言おうしていたかは知らねえが、殴らなかったことを褒めてくれてもいいぞ」
「応、ありがたい!」
何なんだこのテンションは、と膝から崩れ落ちる。大丈夫かー?と前から聞こえるがお前のせいだ
先程の内容を聞きたくもないが、それでは何の為に外へ出たのかということになる。
ここはあくまで平常心を持って、話を聞くだけ聞いてやれば収まるかもしれない
「……ちなみに、なぜ見たいという発想になったんだ。お前は“斬る”ことにしか興味ないんじゃないのか」
「確かにそうだが業魔とはいえ元々人間だ。聖隷のこともよく知らないし、分からん物事に興味を持つのは人間の性だ。ま、業魔だけどな」
分かった分かった、と呆れながら腕を組んだ。純粋なのかそうでないのかイマイチ把握出来ない、人間の成人男性が仲間内に居ないために正しい思考の在り方がどうにも分からん
というより他人の己を慰める姿を見たいか?とまず疑問に思うわけであって、見ようとしたがる思考がそもそも理解出来ない
人間は興味本位でそうも見たくなるものなのか?本来人間そのものへの興味が無いわけでもない俺は唸った。

「ライフィセットには頼めないだろ?ならアイゼンに言うしかないだろ」
さも当然かのように胸を張るロクロウに頭が痛くなった。
「お前……さっき何か言い掛けてたのは何だったんだ」
「ん?ああ言えば阻止してくるだろ?で、アイゼンはやらざるを得なくなる」
期待がこもった満面の笑みに俺は思わず白目を剥いた。


とにかく、だ。ロクロウからその件から興味を反らすため、今夜は心水を飲もうと持ち掛けた。
しばらくはこの街にいるようだし、嗜む程度ならばベルベットやエレノアに咎められることもないだろう
それに俺自身も単に飲みたかったというのもあるし、多少は息抜きもしておきたいところだ
待ち合わせの時刻になり、夜の街を歩いて酒場へ向かう。店主に確認したが、まだロクロウは来ていないようだった。
先に一杯ひっかけたところで待たせたな、という声が掛かる。
「遅いぞ」
「悪い悪い、ちょっと話し込んでた」
ロクロウの盃に心水を注ぎ、飲むように催促する。
「応」
彼は俺が持っていたグラスと盃で軽く音を鳴らした。その高い音で俺達の夜は始まる。
くいっと彼が飲んだあとに俺もそれに続き、心水が嚥下していく独特な心地良さを味わう
「やっぱりうまいな、いつ飲んでもたまらん」
「だな、こんな状況じゃなけりゃもっと飲みたいところだ」
もう一口、回数を重ねて心水の量は増えていく。会話をせずとも、言葉を交わしているような気分になれる相手はとても気が楽だ
「あー……もうダメかもしれん」
やや朱く染まったロクロウの頬を見て俺は喉で軽く笑った。
「そこそこ飲んじまったからな、お前は水に切り替えるか?俺はまだ追加するから頼まれてくれ」
分かった、と彼は立ち上がって水を貰いに行った。残り僅かな心水をグラスに注ぎ、小さく残っていた氷は次第に溶けて消えた。

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(……奴が、遠い)
このぽっかりとした気持ちは何なのだろう、ロクロウは完全に距離を置いていた。
その配慮が嬉しく、悲しいのはなぜだろう。何よりも間違っていない事実が悔しい
憶測だから真実は分かりかねるが、この指輪を作った者も俺と同じ立場だったのかもしれない
穢れを遮断する物を造り、少しでも意中の人と触れたい
業魔が恋をしてはいけないのか、聖隷が愛を感じてはいけないのか
叶わない願いを一生分の一回に込めた、そんな感じがしなくもない
(一生分にしては何個もある時点で察しがつくものだが)
量産するほど出来る代物でもないだろう、大体穢れを受け付けないなんて知れたら大混乱だ
(相当執念深かったと見られなくもない)
何で出来た宝石もとい指輪なのかは分からない、体感や意思を操作してくる代物なんて生きてきた中でも聞いたことがない
だからこの“浄化の指輪”には嘘くさそうな逸話や迷信がついて回ったのだろう

「アイゼン」
ぽん、と軽く肩に手を置かれた。指輪に気を取られてて全く気付かなかった。
「あ?……なんだ…?」
「おいおい、なんだじゃなくて教えてくれるんじゃないのか?」
眉を顰めつつ何だったかと思い出す。ああそうだ、この指輪に可能性があると告げていたのだった。
「……好意への可能性だ」
「成る程、なら心配はいらないな」
「何…?」
ソファーに腰を掛けていた俺にロクロウはにんまりと笑みを浮かべながら後ろから抱き締めてきた。
ふわ、と黒く艶のある髪が頬をくすぐる。それと同時にロクロウ自身のよい匂いが漂う
「これ以上聞くなよ」
軽く触れる程度に唇が重なった。柔らかい感触がすぐ離れ、彼は少しだけ顔を埋めてきた。少しすると満足したようでゆっくりと抱き締める腕を解いた。
「……指輪に侵されたのかもなぁ」
「それでも、いい」




あれからロクロウとの関係はない、距離感もいつも通りとなっている。
(まるで人間みたいだ)
そわそわするようなこの気持ちは何なのか、気付かないようにしていても分かってしまうもので
気分転換に外出をしてみたが、心境はあまり変わらなかった。
(ちっ…すっきりしねえな)
大きなため息をして踵を返した。兎にも角にも指輪の及ぼす影響について報告すると伝えてしまったのだし、ドネラの元へ向かおうとしたが
待てよ、どう報告すべきなのか。肝心な所は男同士で致してしまったことについてだった。
(……やめておこう)
今考えなくても恥ずかしい、俺は一体何がしたいんだ

ロクロウが、もっと欲しくなる。こんな想いを抱いているのは俺だけなのか?
歩きながら考えていると、無意識に辿り着いたのは指輪が入った宝箱だった。
箱を開けてみようと思ったがまた開かない、閉じるんじゃなかった。
「……本当に、どうなってやがるんだ…?」
ギ、と扉の音がして振り返ると腕を組んで壁に寄り掛かっているロクロウが居た。
「なんだ」
「気になったからついてきただけだ、また開かなくなっちまったのか?」
そういえば初めて宝箱を開けたのもロクロウだった。なんだこの宝箱は、業魔でもないと開けられないのか
「何でだろうな、お前と俺じゃそんな力の差なんてあるとは思えんが」
そう言いつつあっさり宝箱が開く、なんだか少し腹立つが仕方ない
指輪を手に取り、光で反射する紅い色に見惚れた。やはりいつ見ても綺麗だと思った。
様々な角度から見ても変わらぬ美しさ、宝石なのだろうが宝石とも言い切きれない
「その指輪、やけに気に入ってるな?」
やはり触りたがらないロクロウに俺は指輪の角度を変えて光を楽しんだ。
「効力は、ともかく……これほどまでに息を呑むような宝石は滅多にないぞ」
「はあ…そうか?綺麗っていうか、やっぱり俺にはおぞましく感じるけどなぁ」

というかお前、と指輪を一度箱に戻してからロクロウと向き合う
「なんで俺についてきた、」
「あー……喋り掛けていいものか分からなかったんでな、つい」
「それで?」
それでって、言われてもなぁ……と彼は後頭部を掻きながら唸っている。
「……気になってる、からじゃないか?」
だん、と扉が荒々しく閉まった。その音が響いた扉と俺の間に挟まれたロクロウは戸惑っていた。
「お前の配慮は確かに嬉しい、が、俺と2人の時だけは無しだ。俺はそんなもの分かった上でお前に触れている、分かったな」
顎を強引に固定して唇を奪った。まだ困惑しているロクロウを黙らせるのにはピッタリだ。
「っん……ぷあッ…!」
つ、とお互いの唇から糸が伝って床へ消えた。
「指輪が無くても抱いてやる」
そう言い放った俺にロクロウは片手で顔を覆った。
彼の下唇は軽く歯で噛まれている。表情は分からない
「分かった…から……離れろ」
一歩下がったと同時に腕を取ると、顔をやや朱くしたロクロウが居た。
不意に俺もそれに体温が上がり、心臓が騒々しくなった。
「……お互い恥ずかしくなってどうすんだ…」
「…うるせえ」
紅く光る指輪は2人を静かに映し、ほんの少しだけ宝石に亀裂が入った。

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