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トライアングルリレーション




どうしてこんなことになっているのか。
なんて考えてもわかるわけがないし、正直わかりたくもない。
もはや幾度目なのか数えるのも面倒になった深い深い溜め息は虚しく麗らかな午後の空気に溶けて露と消える。とりあえずどういった理由があろうとも私を巻き込まないでやってほしいものだと、自分を挟んでぎゃあぎゃあ騒ぐ二人に鈍く痛むこめかみを押さえた。

「だーかーら!大将は今から俺様と買い物に行くのっ」
「いーや、俺と手合わせにするに決まってんだろ」

止まぬ頭痛の原因である紫の中年と黒の青年――レイヴンとユーリは思えば最近こういったことが多い気がする。何かにつけて話しかけてきたり世話を焼いたり、はたまた何を言うでもなくじっと見つめてきたり。
まぁそこまでは決して悪いわけではない(最後のは多少問題はあるが)。だが、こうしてお互い寄れば口論になるのはいただけない。それにせっかく久しぶりに街に寄ったのだから個々の好きに行動すればいいものを。
また旅に戻れば否応なく共に行動するのに、なにが楽しくてこの二人はいつも私などの傍にいるのか。加えて、いい歳した男三人がぴったりくっついてソファーに座っているのはきついものがある。それに狭い。

「ていうか青年、なぁんでいっつも大将に構うのさ」
「おっさんだってそうだろ?暇がありゃアレクセイにべたべたしてやがって」
「だっておっさん部下だもん!」
「元じゃねぇか、元」

ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん。
堂々巡りに繰り返される喧々囂々は到底収束を知らず、そろそろ本気で堪忍袋の緒が音をたてて切れそうになってきた。おかげで魔導士の少女から借りた本の内容もさっぱり頭に入ってきやしない。とても興味深い文献だというのに嘆かわしい。大いに嘆かわしい。
平穏を得るにはこれではいけないと腹を括った私は理解不能な諍いを止めさせるべく、さっそく行動に移した。はずだったのだが。

「ねぇ大将!大将はユーリより俺様の方がいいよねっ」
「はっ。おっさんより若くてぴちぴちな俺の方が当然いいだろ」
「………は?」

まさに斜め上を行く問いかけに出鼻をぽっきりと挫かれた挙げ句、なんとも間抜けな声をあげてしまった。
いい、とはどういう意味だ。頼むからわかるように説明してくれ。そんな口を挟む隙もろくに無いまま、両側の二人は私を置いてきぼりにしてますます舌戦を繰り広げていく。

「若けりゃいいってもんじゃないっしょー?つーか大将とユーリの歳の差なんてほとんど親子じゃないのよぉ」
「んなもん気にしねぇよ。逆に燃え上がるってもんだ」

待て待て待て。話があらぬ方向に向かってないか。しかもなんでいつの間に二人とも私の腕をしっかりと握っているのだ。これでは本も読むことはおろか、逃げることもできない。
じわりじわりと八方塞がりになっていっている気がしてならないというのに、蛇に睨まれた蛙のように動けない。どうにか話題を変えようと焦るも、どっちが好きなんだ!と詰め寄ってきた二人の破竹の勢いに悲しいかな、まったく抗える気がしなかった

「わ、わたし、はっ」

すき。好き、と言ったかこの二人は?いったいなんでそんなことを私に。そんなこと、面と向かって言われたことなどなくて。不測の事態にぐるぐると思考が空回りして絡まっていく。
しっかりと見つめてくる四つの眼差しの中には、ありえないほど情けない顔をした己がいた。

「レイヴンもユーリも……っす、きなの、だが」

ぽろりと口から零れ落ちた言葉に思わず自分で驚愕する。ああ、いったい何を言っているのか!いや、質問の返答としてはおかしくはないはず、だ。だがこれは……なんというか。
耳やら頬やら、もう全身が熱くて仕方なくてまともに彼らの顔が見れやしない。こんな生娘のような反応をする己がどうしようもなく恥ずかしい。もはや我慢の限界だ。
しかし固く決意した脱出劇は両側からおもいっきり抱きつかれ、信じられないことに一瞬にして未遂に終わってしまった。

「な、なにをっ!」
「……反則だっつーの」
「俺様…理性もたないわ……」

必死に藻掻く私の耳に聞こえたのは、微かな呟き。見下ろす形になった彼らの顔はよく見るとかなり赤い。そんな二人に先ほどまで心中を支配していた怒りに似た感情はまるで風船が萎むように小さくなっていく。
……まあ、諍いを止めたのだから良しとするか。とりあえずどう願っても世界は数分前に戻ってくれそうにないのだから。
そうして苦い言い訳を繰り返しては、芽生えはじめた複雑な関係に重い溜め息をひとつ吐いた。










トライアングルリレーション
「……そろそろ離れてはくれないだろうか」「ご免こうむります」
「やだね」
「…………はあ………」

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「…明日も早い、それを飲んで早く寝ろ」

「寝れねぇから来てんだろ、もう少しいさせろよ」

「仕方がない奴だ、君は」



アレクセイは木の枝を薪としてくべながら、少しだけ笑った
火がゆらゆらとアレクセイの顔を照らし、ユーリはその横顔をチラリと見た

端正な顔だと思う
とても40代には見えない

そこでふと気がついて、ユーリも笑う



「あんたもそんな顔して笑えんだな」

「……?」

「そんな柔らけぇあんたの笑顔、初めて見た」



アレクセイの狂気の笑いは見たことがあるが、優しげな笑いは見たことがなかった
仲間になってからも常に無表情を貫き、表情を変えるときは滅多になかった

なんだ、やっぱり人並みの感情を持っているじゃないか

そう感じて、ユーリは少しだけ嬉しくなった

皆が知らないアレクセイを、自分だけが知っている
独占欲になりかねない優越感をユーリは感じていたのだ



「私を悪魔かなにかと勘違いしていないかね?」

「昔はそう思ってたけど、あんたがマトモな人でよかったよ……あんたがなんで人から慕われるのか、分かった気がする」



空になったカップをアレクセイに返して、ユーリは軽く伸びをする



「慕われるなどと…私はただの罪に…」

「言うなよアレクセイ」



アレクセイの言葉を遮って、ユーリは言った



「あんたは確かに罪人だ…それは俺も変わらない。だけどな、こんな俺でも慕ってくれる奴はいるんだ」

「少年や姫様、モルディオ辺りか
私としては君が慕われている理由が分からないな」

「…最後のは聞かなかった事にしてやる
そうだ。罪人だから慕われる権利を持ってないワケじゃない…勝手に慕わせときゃいいんだよ、そんなもん」



俺も、少しだけあんたを慕ってんだぜ

ユーリは心の中で付け足した
そう、ユーリはアレクセイを少しだけだが尊敬しているのだ

戦況を即座に把握する洞察力
的確に指示を出し、時には大博打に挑む事もあるその判断力と行動力
そしてその判断が間違っていないのだから、彼の42年間は伊達ではない



「そういう…ものか?」

「そんなもんなんだよ」



何故だろう
アレクセイがそばにいると何故か落ち着く

今の、仲間であるアレクセイにならば何もかも話してしまいそうな…
いや、話してしまいそうになり、ユーリは首を傾げた


俺はアレクセイを信頼しているのだろうか

信頼か?尊敬か?それとも……


最後に思いついた選択肢を頭を横に振って頭ごなしに否定し、ユーリは自分の気持ちが分からなくなって腕を組んだ

お互いが敵であった頃、ユーリはそんな事を考えなかった
ただ倒すべき敵だとしか認識していなかった

確実に変わっているこの気持ちをユーリは信じたくなかった



「……何を悩んでいるかは知らないが頭は大丈夫か」

「うるせぇあんたのせいだ!!」



アレクセイは呆れたように言い、ユーリは思わず大声で言い切っていた
そのユーリの口はアレクセイの手の平で隠され、ユーリは一瞬息をのむ



「少し静かにしたまえ……皆が起きてしまう」

「……悪い」

「それで、一体何が私のせいなのだ
何かあるなら……善処するが?」


アレクセイはユーリの口にかざしていた手の平を頭にやり、唐突にゆっくりと撫で始めた
その行動に驚いたユーリは、頭に乗せられたアレクセイの手を掴んで放る



「なにすんだ!?」

「なんとなく撫でたくなっただけだ」

「……子供扱いしてんのか」

「私にとって君はまだ子供だ
まだ21だろう?私の半分しか生きていないではないか」

「…あんたなんか嫌いだ…」



両手を頭の後ろに回して寝転がり、夜空を見上げた
あの空を覆う星喰みをなんとかしなければならないのだ
それはユーリもアレクセイも変わらない
いや、思いが強いのはアレクセイだろう
彼にとって星喰みとは己の罪の象徴なのだから



「それは以前からではなかったか」

「そういう態度が嫌いなんだよ」

「はは、まるで反抗期の子供のようだな」

「からかってんじゃねぇよ」



繰り返される言葉はお世辞にも良い内容だとは言えなかったが、ユーリはアレクセイと話していて悪い気はしなかった

本当に、アレクセイは丸くなったと思う
敵として対峙したあの時に比べれば別人と言ってもいいかもしれない
そんなアレクセイに、ユーリは好感を持っていた



「……ん?」

「……うぅ……」

「寝たのか」



しばらく経ち、アレクセイがユーリを見ると、彼は既に夢の世界へ旅立っていた



「仕方ないな」


アレクセイはユーリを起こさないように抱え、テントへと向かい入り口を開いた



「よ、大将」

「レイヴン……起きていたか」




何故かレイヴンは起きていて、アレクセイは彼に構わずユーリを寝かせて毛布を掛ける
カロルはすっかり熟睡中だ



「お前も寝ろ」



アレクセイはそのままテントを出ようとするが、レイヴンが声をかけた



「青年が大将の事をどう思ってるか、知ってる?」

「……さぁな」

「青年言ってたわよ?『よくわかんねぇけど父親ってあんな感じなのかな』って」



アレクセイは振り返らないまま立ち止まった
しばらくそのままだったが、何も言わずにテントを出る



「父親、か……」



焚き火と向き合うように座ってアレクセイは呟いていた



次の日、やけに仲良く話すユーリとアレクセイの姿があったとか



END

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アレクセイも凛々の明星…というか俺達にずいぶん慣れて、俺達もアレクセイに慣れてきた

過去の、ザウデの件のわだかまりは無視で、だが

剣技もできて、術も使えて……
頭脳明晰で判断力に長けて魔導器にすら詳しいアレクセイがどれだけカリスマ性を持っていたことはもう嫌と言うほど分かった

だからって、こんな事までできなくても

アレクセイ、あんたに弱点ってあんのか



事の発端はフレンの一言だった



「みんな疲れてるだろう?今日は僕が料理を作るよ」



野営地に選んだ場所の空気が、何度か冷めた
テントを貼っていたフレンを除く男性陣、道具のチェックをしていた女性陣が一斉にフレンを見やった
フレン自身は「どうしたんだい?」といつもの調子で言っていたが、一同が非常に焦っていることを知らないだろう



「え、いや、いいんだよフレン!!」

「そ…そうよ!!今日はあたしが作るわ!!」



フレンは味音痴なのだ。それも無自覚の
レシピ通りに作ればいいものを、彼は無駄ないらない一手間を加えてしまう

その味は、戦闘中に使えるのではないかと思わせるほどに破壊的である

合成素材を何事もなかったかのように料理に入れてしまうのだから、その味音痴ぶりは凄まじいもので、一行は何度となくフレンが料理をする事をを阻止していた



(リタが作っても大差ねぇな……どうする)



ユーリは考えた
フレンが作らなくても、料理下手なリタが作ってしまえばフレンを止めた意味がない
いや、ある意味リタの料理の方が安全なのかも知れないが

得体の知れない…と言っても合成素材だが、そんな物の入った料理を誰が食べたがるだろうか



「フレン君、おっさんが作ってもいいのよ?」

「いえ、レイヴンさんにはいつも作ってくださってますし、たまには休んでいてください」

「フレンはいつも戦闘で頑張ってくれています、ですから」

「あなたも疲れてるんじゃないかしら?」



無自覚とは末恐ろしいものだ
本人は全くの善意で言っているのでストレートに「味音痴だから止めろ」と言うわけにもいかない
いや、言っても聞いてくれないかも知れない

皆がフレンをいさめる中、今回ばかりは覚悟を決めるかとユーリがため息をついた時、思いもよらぬ人物がこの状況を救った



「……シーフォ、私がやろう」


アレクセイ・ディノイア、彼である
フレンを見やった時とはまた別の意味で、一同の視線が彼へと集まった



(そういえば……アレクセイって料理できんのかよ?)



いささか失礼だが、ユーリはアレクセイをすっかり忘れていた
しかしそう思うよりも、漠然とした不安が募る。アレクセイが料理を作れるのかが気になるのだ



「アレクセイ、あんたできるの?」

「少しは、だがな」



リタの質問の付け加えで

「シーフォの料理は食えたものではない」

と小さく本音を漏らしたアレクセイは、テントを立てる事を止めて食材が入っている袋を見始めた

そこに、以前騎士団長として立ちはだかった時の面影はなかった
まるで旅の始まりからずっとそこにいたかのような錯覚に見舞われる

なんでもできる、それ故に危うさも併せ持ったアレクセイ
しかしその存在が、なくてはならないものとなっている気がした

珍しく俺らしくもない考えをしてしまったな、とユーリは苦笑しながら、この中で一番アレクセイを知っているレイヴンに言う



「アレクセイに任せていいのかおっさん」

「まぁ、心配ないでしょ」



レイヴンはそう言っただけでテントを張る作業を続け、本当に大丈夫なのかと一抹の不安を覚えながら、ユーリも作業を再開した



□■□■□■



「……アレクセイ」

「何かねローウェル君」



焚き火がパチパチと火花を散らす
ユーリは今日見張りであるアレクセイの隣に座った

結局、アレクセイが作った料理は実に美味なもので、彼は今まで何故作らなかったのかと皆に言い寄られていた
挙げ句リタには本で殴られていたが…

本当によく馴染んだものだと思った



「眠れないか?」

「……まぁ、な」

「ふっ……まだまだ若いな」

「うるせぇ」



会話が途切れた
なかなかユーリとアレクセイは会話が続かないのだ
アレクセイは片手で鍋とミルクを取り出して、火にかけた
その手つきを見ながら、ユーリは長い静寂を切り裂くように語りかける



「なぁ……あんたはどうして」

「何度も聞いたな、その質問は」

「何度もあんたは答えちゃくれなかった
あんたなら真っ当な人生送れたはずだ
慕ってくれる人間だって、あんなにいたのに」



なんで覇道なんか……

アレクセイは答えることなく再び静寂が来た
鍋を揺すりながら、彼は小さく口にする

自らを愚かな道化と罵った、憂いのある表情で



「そうしなければならないと思った
私がしなければならない、帝国を変えねばならないと……下から上から、私ならばと期待を受け、それが私にとっての重圧となったのだ」

「あんた結構おっさんと同じタイプだな」

「なに?」

「溜め込んで溜め込んで、自爆する」

「そうかもしれん…な」



アレクセイは鍋で温めたミルクをカップに注ぎ、砂糖を入れてマドラーで混ぜた
それをユーリに渡す
ユーリはほかほかと温かな湯気の立つそれを両手で掴み、口にした
ほのかに甘いミルクが、喉を潤して胃に落ちる。胃の辺りから体が暖かくなってきた
ミルクを飲みながら、ユーリは話を逸らした



「というか、あんた料理出来たのかよ」

「料理ならばお前達で事足りていただろう
聞かれなかったから、言わなかった」

「いや、一人いるといないとで壊滅的な料理を食う間隔が違うだろ」



ユーリの言い分ももっともなのだろう
無表情だったアレクセイはその表情を曇らせていた

大方味を思い出しているのだろう、彼は眉根を寄せながらなんとも言えない顔をしている

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