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アレクセイも凛々の明星…というか俺達にずいぶん慣れて、俺達もアレクセイに慣れてきた

過去の、ザウデの件のわだかまりは無視で、だが

剣技もできて、術も使えて……
頭脳明晰で判断力に長けて魔導器にすら詳しいアレクセイがどれだけカリスマ性を持っていたことはもう嫌と言うほど分かった

だからって、こんな事までできなくても

アレクセイ、あんたに弱点ってあんのか



事の発端はフレンの一言だった



「みんな疲れてるだろう?今日は僕が料理を作るよ」



野営地に選んだ場所の空気が、何度か冷めた
テントを貼っていたフレンを除く男性陣、道具のチェックをしていた女性陣が一斉にフレンを見やった
フレン自身は「どうしたんだい?」といつもの調子で言っていたが、一同が非常に焦っていることを知らないだろう



「え、いや、いいんだよフレン!!」

「そ…そうよ!!今日はあたしが作るわ!!」



フレンは味音痴なのだ。それも無自覚の
レシピ通りに作ればいいものを、彼は無駄ないらない一手間を加えてしまう

その味は、戦闘中に使えるのではないかと思わせるほどに破壊的である

合成素材を何事もなかったかのように料理に入れてしまうのだから、その味音痴ぶりは凄まじいもので、一行は何度となくフレンが料理をする事をを阻止していた



(リタが作っても大差ねぇな……どうする)



ユーリは考えた
フレンが作らなくても、料理下手なリタが作ってしまえばフレンを止めた意味がない
いや、ある意味リタの料理の方が安全なのかも知れないが

得体の知れない…と言っても合成素材だが、そんな物の入った料理を誰が食べたがるだろうか



「フレン君、おっさんが作ってもいいのよ?」

「いえ、レイヴンさんにはいつも作ってくださってますし、たまには休んでいてください」

「フレンはいつも戦闘で頑張ってくれています、ですから」

「あなたも疲れてるんじゃないかしら?」



無自覚とは末恐ろしいものだ
本人は全くの善意で言っているのでストレートに「味音痴だから止めろ」と言うわけにもいかない
いや、言っても聞いてくれないかも知れない

皆がフレンをいさめる中、今回ばかりは覚悟を決めるかとユーリがため息をついた時、思いもよらぬ人物がこの状況を救った



「……シーフォ、私がやろう」


アレクセイ・ディノイア、彼である
フレンを見やった時とはまた別の意味で、一同の視線が彼へと集まった



(そういえば……アレクセイって料理できんのかよ?)



いささか失礼だが、ユーリはアレクセイをすっかり忘れていた
しかしそう思うよりも、漠然とした不安が募る。アレクセイが料理を作れるのかが気になるのだ



「アレクセイ、あんたできるの?」

「少しは、だがな」



リタの質問の付け加えで

「シーフォの料理は食えたものではない」

と小さく本音を漏らしたアレクセイは、テントを立てる事を止めて食材が入っている袋を見始めた

そこに、以前騎士団長として立ちはだかった時の面影はなかった
まるで旅の始まりからずっとそこにいたかのような錯覚に見舞われる

なんでもできる、それ故に危うさも併せ持ったアレクセイ
しかしその存在が、なくてはならないものとなっている気がした

珍しく俺らしくもない考えをしてしまったな、とユーリは苦笑しながら、この中で一番アレクセイを知っているレイヴンに言う



「アレクセイに任せていいのかおっさん」

「まぁ、心配ないでしょ」



レイヴンはそう言っただけでテントを張る作業を続け、本当に大丈夫なのかと一抹の不安を覚えながら、ユーリも作業を再開した



□■□■□■



「……アレクセイ」

「何かねローウェル君」



焚き火がパチパチと火花を散らす
ユーリは今日見張りであるアレクセイの隣に座った

結局、アレクセイが作った料理は実に美味なもので、彼は今まで何故作らなかったのかと皆に言い寄られていた
挙げ句リタには本で殴られていたが…

本当によく馴染んだものだと思った



「眠れないか?」

「……まぁ、な」

「ふっ……まだまだ若いな」

「うるせぇ」



会話が途切れた
なかなかユーリとアレクセイは会話が続かないのだ
アレクセイは片手で鍋とミルクを取り出して、火にかけた
その手つきを見ながら、ユーリは長い静寂を切り裂くように語りかける



「なぁ……あんたはどうして」

「何度も聞いたな、その質問は」

「何度もあんたは答えちゃくれなかった
あんたなら真っ当な人生送れたはずだ
慕ってくれる人間だって、あんなにいたのに」



なんで覇道なんか……

アレクセイは答えることなく再び静寂が来た
鍋を揺すりながら、彼は小さく口にする

自らを愚かな道化と罵った、憂いのある表情で



「そうしなければならないと思った
私がしなければならない、帝国を変えねばならないと……下から上から、私ならばと期待を受け、それが私にとっての重圧となったのだ」

「あんた結構おっさんと同じタイプだな」

「なに?」

「溜め込んで溜め込んで、自爆する」

「そうかもしれん…な」



アレクセイは鍋で温めたミルクをカップに注ぎ、砂糖を入れてマドラーで混ぜた
それをユーリに渡す
ユーリはほかほかと温かな湯気の立つそれを両手で掴み、口にした
ほのかに甘いミルクが、喉を潤して胃に落ちる。胃の辺りから体が暖かくなってきた
ミルクを飲みながら、ユーリは話を逸らした



「というか、あんた料理出来たのかよ」

「料理ならばお前達で事足りていただろう
聞かれなかったから、言わなかった」

「いや、一人いるといないとで壊滅的な料理を食う間隔が違うだろ」



ユーリの言い分ももっともなのだろう
無表情だったアレクセイはその表情を曇らせていた

大方味を思い出しているのだろう、彼は眉根を寄せながらなんとも言えない顔をしている

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