忍者ブログ
New
(10/18)
(10/18)
(10/18)
Search
[ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ふう、少し冷えてきたかな
イスから立ち上がり、窓際に寄る。
隙間風が季節の移り変わりを知らせている。
霧が立ち込めるこの世界は視野を狭める。

ポケットに入っていた小袋を、俺はまだ空けることが出来なかった。
その中身は飴玉、そんなに大事にするものでもない。
ショップに行けば子供でも買える値段のものだ

拍手[0回]

PR
「ところでさ、少年」
散らかったこの部屋を俺は後頭部を掻きながら苦笑した。食べ散らかっているし、タオルも散乱で酷い有様だ
「あわわわわ」
俺の視線に彼は慌て、タオルを手繰り寄せて回収していた。新しいタオルも出しちゃって、どれだけ俺の耳に水を入れたのやら
「あ……これは捨てちゃいますね」
「まだ洗えば使えそうだぞ?」
「ダメです、これは捨てます」
ぴら、とタオルを見せつけてきたそれは黒い焦げ?ゴミ?のようなものが付いていた。どうも取れなさそうだし、多少使ってもいたし換え時かな
「これは絶対に捨てます」
何回言うのやら。ライターとか無いですよね?と聞いてきた少年に俺は随分と執着しているなあ、と苦笑した。
「そこの引き出しに青いライターがあったかな?そうそう、火事にはしないでね」
「分かってますよーっ」
彼は外へ行き、タオルを静かに燃やしていた。それを遠目に見ながら、俺は食器を片付け始めた。

(綺麗に食べてくれたのは嬉しいけど…せっかくの時間を無駄にしたな)

思わず溜息が漏れる。この世界のことだ、普通に暮らしているというだけで危険だったりするから困りものだ
でも、不思議と少し気が楽になったのは気のせいじゃない。柄にもないけれど、泣いたことが大きかったかもしれない

「よし…っと、戻りましたー」
お帰り、と声を掛けた。彼はライターをしまい、キッチンに来て俺を見上げた。
「ん……なに?」
「なにボケっとしてるんすか?さっさと片付けてどこか食べ行きましょーよ!」
あれ、そんな予定立ててたっけな?疑問を抱いたけれど、すぐにそれはどうでもいいことだと思った。
「そうだな、そうしようか」





響く赤子の声。ああ、生きている。1つの生命が知らせている。
いつ頃だったっけな、泣くことを忘れたのは。こう、歳を取ると昔出来ていたことが出来なくなる。
逆だろう?理屈的に出来るはずなのだ、大人にもなれば幼子より楽しめる。
なのに、嘘ばかりの壁を作って固めてまた繋げて。仕事柄という理由だけではない

はあ。思わず深い溜息。

泣けなくなった。叫べなくなった。頼りづらくなった。
大人だからとか、男だからだとか、そういうものではなく
余計な自尊心が我々を忘れ、強くあり続けようと嘘をつく


「なあ、レオ」
「なんですか?」
助手席で暇を持て余している隣の少年に声を掛けた。彼は信号を見た後に僕を見た。
「時々……ハグ、していい?」
「いきなりどうしたんですか?」
「嘘をつき続けた結果だよ」
それならしょうがないっすね!と少年は乗ってきた。だろ?と僕は思わず微笑んだ。
全部が全部、話せることではない。でも、話さなくても話せなくてもその小さな体で受け止めてくれる頼りある少年だ

「…おかしいなあ」
ぽつりと呟く。男前な少年を、きっと、僕だけが知っている。嬉しいけれど、やっぱりちょっと格好がつかない
「何言ってんすか、これ以上スティーブンさんのいいとこお披露目されちゃ僕が困ります」
「うわー…少年、僕の心読んだ?」
少し含みのある笑みでどうでしょうね?と返ってきた。ああ、やはり頼もしい少年だ
信号が青に切り替わり、僕はアクセルを緩やかに踏み込んだ。少しでも少年と長く居たい、そんな想いだ





それと、もう我慢しなくていいんだ

拍手[0回]

スティーブンさんは、今にも気持ちが崩壊しそうな表情をしていた。なぜ、そんな顔をするんですか。
僕の目なら分かるはずだ。神々の義眼だからとか、そういう意味を含めなくても僕の目なら分かる。
ミシェーラの犠牲、負い目が脳裏を掠める。そうだ、むしろ分からなければこんな目など意味が無いのだ。
そんなこと、僕が許さないし許せない

それは、ともかく。僕が言いたいのは、スティーブンさんは身体的からの攻撃ではなくて精神的な攻撃を受けてしまったというところに着目したい
スティーブンさんが精神的な面で弱いとは思えない。彼の全てを知っているわけではないにしても、僕よりずっと強い人だと思っている。

けれど、スティーブンさんは弱っていた。内側から心を暴かれ、引き剥がされ、追い打ちをかけるような
彼はその世界で何もしなかったという。どんなことをされたのかは知らないが、スティーブンさんだって怒れば突き刺すような氷を放てるはずなのだ
僕だったから、といっても怒らないなんてことない。必要であれば怒るし、実際怒られもする。だが、何もしなかったようなのだ

『僕、は……忘れられたくないんだっ…!』

スティーブンさんは泣いていた。今まで見た事なかったから、それは驚いた。そして忘れられたくないというキーワード
頭の中でそれはぐるぐると巡る。あったことがなかったことにされ、それに加えて自分の存在など無かったということを伝えられたと
それは、どうにも言えなかった。僕は忘れませんよ。僕はそんなことになりません。僕だけは、僕は。
けれどその言葉に保証出来ないことを僕は思い知った。だから、安易なことも言えなかった。何一つ、彼に応えられなかった。





悪夢だったと。あれは出来過ぎた悪夢で、心の弱さが露見してしまったのだろう
小さく唸ると、影を感じて視線に気付けばそこには少年が居たのだった。
「お、おはよう…?な……何だい…?」
膝枕は嬉しいけれど、ちょっと彼が怖い。悪夢のせいだと分かっていても、寝起きでは少々構えきれないところもあった。
「今、どんな気持ちですか?」
不思議なことを聞くものだ。どんな気持ち?すっきりはしてないし、心が重い感じはするかもしれない
「そうだなあ…多分、眠いんじゃないかな?」
「いつまで嘘つくんですか?」
「え…?」
嘘なんてついていない。喋れないことは多々あるけれど、嘘を彼に喋ったことなんて一度もない
「俺はスティーブンさんが自分自身に嘘をついていることに怒りを感じます。そうやって嘘の壁作るの、やめましょうよ?」
「そんなこと……」
少年はムッとした表情で顔を左右に振った。僕が僕自身に嘘をつくだって…?
「スティーブンさん、もっと自分に優しくして下さい。俺より強い人だけど、人間である以上は一気に弱みにつけ込まれちゃうんですよ
だから嘘の壁ぶっ壊して、本当に見せたかった本当のスティーブンさんを見せて下さい。俺は、拒みません」
「まったく…僕の見た悪夢、本当は見てたんじゃないの…?」

そんなこと言われたら、また泣いちゃうよ。でも、少しだけ少年が頼もしくなった。
彼は精神的に強いみたいだ。きっと僕よりも、それももしかしたら考え方の違いなのかもしれない
僕自身、弱い自覚はあまりなかった。立場的にも裏切りを受けることもあるし、救えなかった命だってないわけじゃない
馬鹿みたいにそんなことを繰り返すうちに、心が死んでいたと思っていたが、今回でそれは嘘だと気付かされた。

見ないふりをしてきたのだ。そんなことをされても、無駄だと思い続け、いずれはそれが常識化してしまっていたのだ
けれど思い知らされた。僕が見てこなかった現実を、そこでは関係性の改変があったにしろキツかった。


「レオ……背中貸してくれよ」
不思議そうに彼は背後を見せ、何ですか?と声が前から聞こえた。
小柄だけれど頼れるその背中に、僕は少し見つめた。それから後ろからゆっくりと、子供がぬいぐるみを抱きしめるような気持ちで抱きしめた。

彼の鼓動が、生きていることを伝えてきている。
僕を、拒否しない。僕を知っているレオナルド・ウォッチ
手の平が僕の手の甲に重なり、軽く絡まる。でも、顔は見せないからね

そうだ、怖かったんだ。僕は怖かった。
そして転んで膝を擦り剥いて泣いた子供のようだった。
我慢できなくて、僕は少しだけ顔を埋めた。

拍手[0回]


Copyright © Labyrinth All Rights Reserved.
Powered by Ninjya Blog 
忍者ブログ [PR]