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『どこの誰と重ねてるのか知りませんけど、迷惑だからやめてもらっていいっすか?正直言って…気持ち悪いんですよ』

ああ、こんなこと言われちゃって。なんで俺も言い返さず、言葉を飲み込んでしまうんだろう。
言えない。例え、嘘でも何でも。紛れもなく彼は“レオナルド・ウォッチ”なのだから
俺が、俺さえここから立ち去れば、彼はきっと笑うだろう。見知らぬ、鬱陶しい人が居なくなった…って

「……悪かったな、」










かくん、まるで人形のように眠ってしまったこの長身男性を僕は一体どうしたらよいのか
夕食を食べよう、と久々に誘われてがつがつ食べていたら向かいに座っていたスティーブンさんが眠ってしまったようだった。
まだご飯も食べてないのに、とも思ったがここのところ連戦続きだった上にその分報告書なんかもあって
そこそこ手伝えるようになってきたものの、足元にも及ばないのだろう。見ないようにはしてきたけれど、こうも目の前で死んだように眠られると、実力不足だと思い知る。
それでもまあ、僕なりに頑張っているところは認めてもらえているし、そこまでネガティブかというとそうでもないのだが。もう少し頑張らないと、と思いはする。

それにしてもだ、微動だにしない彼に近付いてみた。疲れた顔をしている、寝るならちゃんと横になってほしいけれど僕だけでは運ぶのがちょっと難しい
仕方がないので彼をソファーに横へ寝かせ、クッションを枕代わりにしてみた。スティーブンさん、お疲れ様です。
そう呟きながら軽く髪に触れた。微笑ましいな、と感じた時だった。あれ、スティーブンさん、呼吸……してない…?

「えっ…ス、スティーブンさん!?」
ゆさゆさと揺さぶるが何の変化もない、脈もあるし心臓も動いている。でも呼吸をしていない、胸は上下していなかった。
一気に汗が噴き出た。どうしたらいい!?そうだ、クラウスさんを呼ぼう、と考えついたのだが
(待てよ……)
うっすらと瞳を開けてみた。スティーブンさんを上から下まで、隅々まで見てみた。何か、何か見つかるはず。
目を凝らし、グッと。スティーブンさんを、強く、僕にだってやれることはあるはずだ
何か、何だ?耳?耳から侵入したのか?小さい虫のような生物が脳と何かを繋げている。
「こいつ…!!」
だが困ったことに耳の奥を掻き回せるものなど手元になく。下手にしたところで耳を傷付ける可能性がある。
「そうだ、水!」
キッチンからカップとそれに水を注いで戻ってくる、それとタオルを多めに。水ならば害はないし、傷付ける恐れはそこまでないだろう
ジャパニーズことわざにもある寝耳に水だ、思い出した僕を少し褒めたい。意味合い、全然違う気がするけど

(引き剥がせればいいんだ…頼むっ……)
タオルをそこらじゅうに広げてから水をそっと耳に注いでみた。スティーブンさんの顔を少し揺らしてみると、虫は足を少しバタつかせ始めた。
よし、地道だけど効果はある!スティーブンさんの上体を起こし、残りの水を出すべく反対側へと傾けた。
「ぐ……この虫め…!」
耳から出ろよ!と、言いたかったが相手はちっこい虫。でもスティーブンさんに何かしらの影響を与えているのは間違いない
水を入れては水を出し、の繰り返し。早く、早く出やがれってんだチクショーめ!
「あっ」
ついには溺死したようで、耳から虫が出てきた。うぉら!とタオルで押しつぶし、ようやく虫とのバトルは終わったのだった。





「お…怒らないでくれ、もう、何も聞かないから」
起きてすぐに彼はそう言った。いきなりの急展開に僕は眉をひそめた。
「何、言ってるんですか?」
「……怖いんだ、もう、やめてくれ」
彼は手で顔を覆った。これはまた厄介なことがあったのだろう、スティーブンさんがこんな状態になるなんて
「スティーブンさん、あの、」
ふるふると小さく拒まれた。何に対して拒まれたのか、少し分からない
あの虫が何かをやらかしたのは分かるけれど、それでもそれを分かっているのはスティーブンさんなのだ
(…困ったなあ、やっぱりクラウスさんを呼ぶべきかな……)
携帯を取り出し、電話を掛ける手前でそれは消えた。実際には携帯が軽く弾かれた。
「やめろ!俺も、俺も……忘れるから…」
「何を……」
ぽた、彼の瞳から溢れ出た一滴を見て驚いた。
「ちょっと待って下さいよスティーブンさん、勝手に話を進めないで下さい」
何があったのか分からないが、とても良くない状況であることは把握出来た。
「いやだ…」
「スティーブンさんっ!」
ぐっと肩を掴んだ。とにかく事情を説明してもらわなければ、こんなに酷くやつれたスティーブンさんなど今まで見たことがない

「何があったのか説明して下さい。僕はそれを聞く義務がある」

レオナルド・ウォッチが存在していた。彼は俺を、スティーブン・A・スターフェイズを知らなかった。
俺だけを取り残して、他のメンバーは彼の中に存在しているのに俺だけが

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『アンタ……誰?』


この不可思議な世界に放り込まれて、もう7時間が経とうとしていた。
日常が非日常な出来事ばかりだと説明すれば理解して頂けるだろうか
そことはまた別の、別ではないのだが別と言ってもおかしくはない


『なんだって知らないアンタとこんなとこに居なきゃなんねえんっすか』

よく喋る少年だ、口を動かす気力があるなら状況をなんとかしてほしいものだ
俺としても理解出来ないし、理解の範囲を越えていて考えるのをやめたいくらいだが

どうやら彼は俺を覚えていないらしい
否、実際には俺だけを知らないようなのだ

このヘルサレムズ・ロットにはこんな悪趣味なやり方もあるのかと舌打ちをしたくなった。
彼が本物か、本物でないかはともかく……と、思えたら良かったのだけれど
本物であるなら早く記憶を取り戻してほしいと思うし、偽物だとしても穏便にいきたいものだ

(どうしてこうなっちまったのやら)

夢なのかそうでないのかすら分からないが、俺の知る現実世界とはかなり異なる。
俺の家であるにも関わらず、家からは一歩も出られないという謎の結界もあるようだ
出ようものなら肌が透ける、悪寒を感じたからすぐに手は引いたけれど。
チェインのように姿は消せないし、ここから先は出られない、と無言の拒絶空間

その時、俺は彼を久々に家へ誘った日にそれは起きた。
少年はむくりと起きて、俺を見た第一声

『アンタ……誰?』


脳震盪を起こし、時折彼は忘れることがある。ライブラの一員であるのだから、必然的に事故や怪我は多くなってしまう。
しかし彼の場合は不運なことに、武器を持って戦う手段を持っていないためにどうしても病院送りの可能性は高まる。
だが、今回はいつにも増して酷い。症状としては無くはないのかもしれないが、こんな少年を俺は知らない

「…なあ……本当に『次は言いませんよ、どこも痛くも痒くもない』

氷のように冷たい返答。俺の、出す氷より、冷たいかもしれないなあ
靴を見れば、少し砂が付いていた。まばたき、極薄の氷を張ってみた。
あっという間に溶け、砂は綺麗に取れたようだった。問題なく靴から氷は出せるようだった。


初めに彼へ問うた。どこか痛むところはないか、と
警戒しつつも、そんなところ一切ないと彼はわざと短めに答えた。
普段の彼と違っていて、彼は俺の知る“レオナルド・ウォッチ”ではないと気付いた。
ならば、俺の知る“レオナルド・ウォッチ”はどうしたのかと。確認する術は今のところ、ない
怪我もしていないようならば、彼はなぜ俺だけを完璧に忘れてしまっているのだろう

尊敬の念をクラウスに抱く彼が。
馬鹿やって騒ぐザップの隣に彼が。
世間話をして笑うチェインの隣に彼が。
煙草を吸うK.Kを尋ねる隣に彼が。
昼食を共にするツェッドの隣に彼が。
コーヒーを淹れるギルベルトさんの隣に彼が。

その中に、どうして──────が居ないんだ。

意外と、いや…かなり、キているようだった。
こういうことには動揺しないつもりでいたし、そうでありたかった。
一人の人間の出来事で、ここまで悪化したことがあっただろうか


そしてまた、どうして先程から不機嫌なんだ?と5時間前に聞いた時に彼は俺を怪訝な表情で見た。
俺の知っている少年は、そんな表情見せたことなかった。あるいは、見せる場面なんて無かったのだろうが

『どう考えても不気味だと思うでしょ。知らない人に俺のことも知ってて、ライブラのメンバーも知っている……気味悪いことだと思いますけど』

不思議と言い返す気力もなかった、俺を知っている彼ならばこんなこと言わない。俺が返り討ちにすると分かっているからだ
氷を使って、彼を支配することも出来るけれど。それに実際俺の心は沼のように濁っていて深く、苛立っていることも自覚している。

(彼に当たったところで解決はしない)

分かってはいたけれど、俺だって人間で。傷付けられれば痛いし、酷ければ涙だって流す。
面白ければ笑うし、つまらなければ流すし。辛ければ求めるし、考える。
俺だって人間で。誰かを拠り所にすることなんてあってはならなかった。
拠り所に、して、いたのだ。していたから、こんなにも苦しく、憎く、悔しい
怒ったところで、今の彼には理解出来ないのだ。理解されることも、これっぽっちもない
そもそも俺が存在していないのだから、分かり得るはずがないのだ

「スティーブン……という男を知っているか?」

またか、と言いたげな表情が伺えた。話しかける度に心が痛むのは自分だけなのに、どうして話したくなるんだろう
俺はきっと、まだ希望を捨てられずにいるのだ。滑稽なことだ、愚かしいことを繰り返す。

『知らないです!もう…何なんですか、さっきから同じ質問ばかり!』
「…すまない、怒らせるつもりはなかったんだ」
じ、とこちらを見る少年。久々に時間を共に出来ると思ったらこれである。さすがに、辛いな

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「そういう話、したことなかったですね」
「……ってことは少年、酒飲めないのか」
唐突に突き付けられた現実、というかいうほど残念な出来事でもないのだが
「別にいいっすよ、将来的にお酒たくさん飲むかって言われるとあんまり想像も出来ないんで。それにいずれは酒を飲める年齢になっちゃいますからね」
そうだな、時は残酷で。俺なんか気がついたら三十路だよ、み・そ・じ
「スティーブンさんこそ意外でした」
「もっと年取ってるとか言いたいんだろ」
「自虐しないで下さいよ、踏み込まないようにしてたのに」
「無理ある言い訳だな」

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