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『アンタ……誰?』


この不可思議な世界に放り込まれて、もう7時間が経とうとしていた。
日常が非日常な出来事ばかりだと説明すれば理解して頂けるだろうか
そことはまた別の、別ではないのだが別と言ってもおかしくはない


『なんだって知らないアンタとこんなとこに居なきゃなんねえんっすか』

よく喋る少年だ、口を動かす気力があるなら状況をなんとかしてほしいものだ
俺としても理解出来ないし、理解の範囲を越えていて考えるのをやめたいくらいだが

どうやら彼は俺を覚えていないらしい
否、実際には俺だけを知らないようなのだ

このヘルサレムズ・ロットにはこんな悪趣味なやり方もあるのかと舌打ちをしたくなった。
彼が本物か、本物でないかはともかく……と、思えたら良かったのだけれど
本物であるなら早く記憶を取り戻してほしいと思うし、偽物だとしても穏便にいきたいものだ

(どうしてこうなっちまったのやら)

夢なのかそうでないのかすら分からないが、俺の知る現実世界とはかなり異なる。
俺の家であるにも関わらず、家からは一歩も出られないという謎の結界もあるようだ
出ようものなら肌が透ける、悪寒を感じたからすぐに手は引いたけれど。
チェインのように姿は消せないし、ここから先は出られない、と無言の拒絶空間

その時、俺は彼を久々に家へ誘った日にそれは起きた。
少年はむくりと起きて、俺を見た第一声

『アンタ……誰?』


脳震盪を起こし、時折彼は忘れることがある。ライブラの一員であるのだから、必然的に事故や怪我は多くなってしまう。
しかし彼の場合は不運なことに、武器を持って戦う手段を持っていないためにどうしても病院送りの可能性は高まる。
だが、今回はいつにも増して酷い。症状としては無くはないのかもしれないが、こんな少年を俺は知らない

「…なあ……本当に『次は言いませんよ、どこも痛くも痒くもない』

氷のように冷たい返答。俺の、出す氷より、冷たいかもしれないなあ
靴を見れば、少し砂が付いていた。まばたき、極薄の氷を張ってみた。
あっという間に溶け、砂は綺麗に取れたようだった。問題なく靴から氷は出せるようだった。


初めに彼へ問うた。どこか痛むところはないか、と
警戒しつつも、そんなところ一切ないと彼はわざと短めに答えた。
普段の彼と違っていて、彼は俺の知る“レオナルド・ウォッチ”ではないと気付いた。
ならば、俺の知る“レオナルド・ウォッチ”はどうしたのかと。確認する術は今のところ、ない
怪我もしていないようならば、彼はなぜ俺だけを完璧に忘れてしまっているのだろう

尊敬の念をクラウスに抱く彼が。
馬鹿やって騒ぐザップの隣に彼が。
世間話をして笑うチェインの隣に彼が。
煙草を吸うK.Kを尋ねる隣に彼が。
昼食を共にするツェッドの隣に彼が。
コーヒーを淹れるギルベルトさんの隣に彼が。

その中に、どうして──────が居ないんだ。

意外と、いや…かなり、キているようだった。
こういうことには動揺しないつもりでいたし、そうでありたかった。
一人の人間の出来事で、ここまで悪化したことがあっただろうか


そしてまた、どうして先程から不機嫌なんだ?と5時間前に聞いた時に彼は俺を怪訝な表情で見た。
俺の知っている少年は、そんな表情見せたことなかった。あるいは、見せる場面なんて無かったのだろうが

『どう考えても不気味だと思うでしょ。知らない人に俺のことも知ってて、ライブラのメンバーも知っている……気味悪いことだと思いますけど』

不思議と言い返す気力もなかった、俺を知っている彼ならばこんなこと言わない。俺が返り討ちにすると分かっているからだ
氷を使って、彼を支配することも出来るけれど。それに実際俺の心は沼のように濁っていて深く、苛立っていることも自覚している。

(彼に当たったところで解決はしない)

分かってはいたけれど、俺だって人間で。傷付けられれば痛いし、酷ければ涙だって流す。
面白ければ笑うし、つまらなければ流すし。辛ければ求めるし、考える。
俺だって人間で。誰かを拠り所にすることなんてあってはならなかった。
拠り所に、して、いたのだ。していたから、こんなにも苦しく、憎く、悔しい
怒ったところで、今の彼には理解出来ないのだ。理解されることも、これっぽっちもない
そもそも俺が存在していないのだから、分かり得るはずがないのだ

「スティーブン……という男を知っているか?」

またか、と言いたげな表情が伺えた。話しかける度に心が痛むのは自分だけなのに、どうして話したくなるんだろう
俺はきっと、まだ希望を捨てられずにいるのだ。滑稽なことだ、愚かしいことを繰り返す。

『知らないです!もう…何なんですか、さっきから同じ質問ばかり!』
「…すまない、怒らせるつもりはなかったんだ」
じ、とこちらを見る少年。久々に時間を共に出来ると思ったらこれである。さすがに、辛いな

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