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「ところでさ、少年」
散らかったこの部屋を俺は後頭部を掻きながら苦笑した。食べ散らかっているし、タオルも散乱で酷い有様だ
「あわわわわ」
俺の視線に彼は慌て、タオルを手繰り寄せて回収していた。新しいタオルも出しちゃって、どれだけ俺の耳に水を入れたのやら
「あ……これは捨てちゃいますね」
「まだ洗えば使えそうだぞ?」
「ダメです、これは捨てます」
ぴら、とタオルを見せつけてきたそれは黒い焦げ?ゴミ?のようなものが付いていた。どうも取れなさそうだし、多少使ってもいたし換え時かな
「これは絶対に捨てます」
何回言うのやら。ライターとか無いですよね?と聞いてきた少年に俺は随分と執着しているなあ、と苦笑した。
「そこの引き出しに青いライターがあったかな?そうそう、火事にはしないでね」
「分かってますよーっ」
彼は外へ行き、タオルを静かに燃やしていた。それを遠目に見ながら、俺は食器を片付け始めた。

(綺麗に食べてくれたのは嬉しいけど…せっかくの時間を無駄にしたな)

思わず溜息が漏れる。この世界のことだ、普通に暮らしているというだけで危険だったりするから困りものだ
でも、不思議と少し気が楽になったのは気のせいじゃない。柄にもないけれど、泣いたことが大きかったかもしれない

「よし…っと、戻りましたー」
お帰り、と声を掛けた。彼はライターをしまい、キッチンに来て俺を見上げた。
「ん……なに?」
「なにボケっとしてるんすか?さっさと片付けてどこか食べ行きましょーよ!」
あれ、そんな予定立ててたっけな?疑問を抱いたけれど、すぐにそれはどうでもいいことだと思った。
「そうだな、そうしようか」





響く赤子の声。ああ、生きている。1つの生命が知らせている。
いつ頃だったっけな、泣くことを忘れたのは。こう、歳を取ると昔出来ていたことが出来なくなる。
逆だろう?理屈的に出来るはずなのだ、大人にもなれば幼子より楽しめる。
なのに、嘘ばかりの壁を作って固めてまた繋げて。仕事柄という理由だけではない

はあ。思わず深い溜息。

泣けなくなった。叫べなくなった。頼りづらくなった。
大人だからとか、男だからだとか、そういうものではなく
余計な自尊心が我々を忘れ、強くあり続けようと嘘をつく


「なあ、レオ」
「なんですか?」
助手席で暇を持て余している隣の少年に声を掛けた。彼は信号を見た後に僕を見た。
「時々……ハグ、していい?」
「いきなりどうしたんですか?」
「嘘をつき続けた結果だよ」
それならしょうがないっすね!と少年は乗ってきた。だろ?と僕は思わず微笑んだ。
全部が全部、話せることではない。でも、話さなくても話せなくてもその小さな体で受け止めてくれる頼りある少年だ

「…おかしいなあ」
ぽつりと呟く。男前な少年を、きっと、僕だけが知っている。嬉しいけれど、やっぱりちょっと格好がつかない
「何言ってんすか、これ以上スティーブンさんのいいとこお披露目されちゃ僕が困ります」
「うわー…少年、僕の心読んだ?」
少し含みのある笑みでどうでしょうね?と返ってきた。ああ、やはり頼もしい少年だ
信号が青に切り替わり、僕はアクセルを緩やかに踏み込んだ。少しでも少年と長く居たい、そんな想いだ





それと、もう我慢しなくていいんだ

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