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スティーブンさんは、今にも気持ちが崩壊しそうな表情をしていた。なぜ、そんな顔をするんですか。
僕の目なら分かるはずだ。神々の義眼だからとか、そういう意味を含めなくても僕の目なら分かる。
ミシェーラの犠牲、負い目が脳裏を掠める。そうだ、むしろ分からなければこんな目など意味が無いのだ。
そんなこと、僕が許さないし許せない

それは、ともかく。僕が言いたいのは、スティーブンさんは身体的からの攻撃ではなくて精神的な攻撃を受けてしまったというところに着目したい
スティーブンさんが精神的な面で弱いとは思えない。彼の全てを知っているわけではないにしても、僕よりずっと強い人だと思っている。

けれど、スティーブンさんは弱っていた。内側から心を暴かれ、引き剥がされ、追い打ちをかけるような
彼はその世界で何もしなかったという。どんなことをされたのかは知らないが、スティーブンさんだって怒れば突き刺すような氷を放てるはずなのだ
僕だったから、といっても怒らないなんてことない。必要であれば怒るし、実際怒られもする。だが、何もしなかったようなのだ

『僕、は……忘れられたくないんだっ…!』

スティーブンさんは泣いていた。今まで見た事なかったから、それは驚いた。そして忘れられたくないというキーワード
頭の中でそれはぐるぐると巡る。あったことがなかったことにされ、それに加えて自分の存在など無かったということを伝えられたと
それは、どうにも言えなかった。僕は忘れませんよ。僕はそんなことになりません。僕だけは、僕は。
けれどその言葉に保証出来ないことを僕は思い知った。だから、安易なことも言えなかった。何一つ、彼に応えられなかった。





悪夢だったと。あれは出来過ぎた悪夢で、心の弱さが露見してしまったのだろう
小さく唸ると、影を感じて視線に気付けばそこには少年が居たのだった。
「お、おはよう…?な……何だい…?」
膝枕は嬉しいけれど、ちょっと彼が怖い。悪夢のせいだと分かっていても、寝起きでは少々構えきれないところもあった。
「今、どんな気持ちですか?」
不思議なことを聞くものだ。どんな気持ち?すっきりはしてないし、心が重い感じはするかもしれない
「そうだなあ…多分、眠いんじゃないかな?」
「いつまで嘘つくんですか?」
「え…?」
嘘なんてついていない。喋れないことは多々あるけれど、嘘を彼に喋ったことなんて一度もない
「俺はスティーブンさんが自分自身に嘘をついていることに怒りを感じます。そうやって嘘の壁作るの、やめましょうよ?」
「そんなこと……」
少年はムッとした表情で顔を左右に振った。僕が僕自身に嘘をつくだって…?
「スティーブンさん、もっと自分に優しくして下さい。俺より強い人だけど、人間である以上は一気に弱みにつけ込まれちゃうんですよ
だから嘘の壁ぶっ壊して、本当に見せたかった本当のスティーブンさんを見せて下さい。俺は、拒みません」
「まったく…僕の見た悪夢、本当は見てたんじゃないの…?」

そんなこと言われたら、また泣いちゃうよ。でも、少しだけ少年が頼もしくなった。
彼は精神的に強いみたいだ。きっと僕よりも、それももしかしたら考え方の違いなのかもしれない
僕自身、弱い自覚はあまりなかった。立場的にも裏切りを受けることもあるし、救えなかった命だってないわけじゃない
馬鹿みたいにそんなことを繰り返すうちに、心が死んでいたと思っていたが、今回でそれは嘘だと気付かされた。

見ないふりをしてきたのだ。そんなことをされても、無駄だと思い続け、いずれはそれが常識化してしまっていたのだ
けれど思い知らされた。僕が見てこなかった現実を、そこでは関係性の改変があったにしろキツかった。


「レオ……背中貸してくれよ」
不思議そうに彼は背後を見せ、何ですか?と声が前から聞こえた。
小柄だけれど頼れるその背中に、僕は少し見つめた。それから後ろからゆっくりと、子供がぬいぐるみを抱きしめるような気持ちで抱きしめた。

彼の鼓動が、生きていることを伝えてきている。
僕を、拒否しない。僕を知っているレオナルド・ウォッチ
手の平が僕の手の甲に重なり、軽く絡まる。でも、顔は見せないからね

そうだ、怖かったんだ。僕は怖かった。
そして転んで膝を擦り剥いて泣いた子供のようだった。
我慢できなくて、僕は少しだけ顔を埋めた。

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