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複雑な気持ちを抱きながらレオナルド・ウォッチは霧の掛かった夜空を見上げて長く息を吐いた。

元々一般人だった僕だが、きっかけもあって裏社会にも通ずることのある秘密結社ライブラに身を置くこととなった。
そこまでは覚悟の上だ、己の持つ神々の義眼のことも知りたいし妹であるミシェーラの視力も戻したい
これが一般社会では分かり得ないことだということも、だからここで協力して行こうと決めたのだ

そんな時、ライブラの中でも最近よく関わってくれる人が居た。
名前はスティーブン・A・スターフェイズ、ライブラの副官的存在であり頼りになる人だ
彼はスーツを着込んでおり長身で端正な顔立ちをしており、いかにもモテそうなオーラが漂っている。

彼と関わって来て疑問を抱いたのはそれからしばらく経った時だったはずだ
スティーブンさんと一緒に居たいとか、ちょっとしたことなのに微妙に贔屓してくれたりとか
そういう部分ばかりが目に付き、女の子でもないのにちょっとした恋みたいなものを感じた。
まさか、と葛藤していればスティーブンさんから具合が悪いのか?などと聞かれて悩む時間すらない
だからその辺曖昧になっていたし、認めていいのかも分からず過ごしていた。
はっきり言えば僕は女の子が好きだし、結婚とかどんなもんなんだろうとか思って

なのに、何なんだろう
この悶々とする、どうしようもない気持ちは

「わあぁぁあっ!!!」

思わず書類をぶちまけ、舞う紙の白がちらつく
きちんと寝てないから思考がおかしいんだ、きっとそうだ
ソファーへ横になり身を縮こませてそのままで居ようと思ったが、さすがにこれでは怒られると思って起き上がった。
怠い体に鞭を打って散らばった紙を集めて行く、よく考えたらそこそこ量のある紙を散らしてしまった。

「どうした?」

声のする方に顔を向けると、悩みの種となっている本人が不思議な表情で入って来た。
ドキリとしたがここで下手をしてはならない、というかスティーブンさんが近くに居たなんて知らなかった。

「あ、や、すみません!足がもつれて紙が…」
「大丈夫か?ケガは?」
「ケガはしてません、もしかしたら眠いのかもしれないです…」

眠いのは事実だ、思考だってこんなにおかしい
後頭部を掻きながら紙を拾うと、いきなり体が浮いた。
どうやら担がれたらしい、驚いて声も出たし何枚か紙も落としてしまった。
ゆっくりとソファーに降ろされ、寝たらいいよと微笑まれながら彼は紙を拾い始めた。
そんな、と起き上がって紙を拾おうとすれば靴裏が見えて先程と同じ笑みだというのに怖く見える。
ひんやりとした冷たさを微妙に感じて動けなくなってしまった、何気に酷い

「しかし随分散らしたね」
「だから拾いますって…」
「動くなよ」
「はい……」

しばらくしてようやく拾い終わったらしいが、また何か違った音がした。
何だろうと顔だけ音のある方に向けると、どうやら飲み物を用意しているようだった。
「少年は何がいい?」
「じゃあ…コーヒーでお願いします」
「顔に似合わず意外だな」
「何気に酷いこと言ってません?」
コポコポと沸き立つ音がし、嗅覚がよい匂いを察知し始めた。
はい、とマグカップを渡されたので礼を言ってから匂いを嗅いだ。
コーヒーに詳しくはないが、この苦味を感じさせる独特の香りが非常に楽しませてくれる。
「俺さ、コーヒーあんまり好きじゃないんだよ」
「そうなんですか?それこそ意外ですね」
スティーブンさんのマグカップをよく見てみると、匂いや見た目からしておそらくミルクティーを淹れたのだろう
「飲めなくはないんだけどね、でも…せっかく飲むなら甘い方が好きかな」
「はは、なんだか不思議ですね」

どうやらイメージ的に普段コーヒーを飲んでいそうだと勝手に思い込んでしまっていたらしい
スティーブンさんは当然立派な大人だし、だからこそ大人らしくコーヒー…と印象付いていたみたいだ
「コーヒーっぽい印象あった?」
「むしろコーヒーをたくさん飲んでいそうです」
そうか〜と言いながら後頭部を掻いて笑っている、その笑顔に思わずつられて笑った。
上手く言えないのだが喋っていると楽しいし、もっとスティーブンさんのことが知りたくなる。

「少年、飲んだら少し寝たらいい」
「……そう、ですね。ちょっとだけ寝ます」
「おやすみ」
「はい、おやすみなさい」

もう一口飲んでからソファーへ横になり、良い香りに包まれながら思考を静かに止めていく
段々と暗闇への休息に呑み込まれる、僕は最後に靴の音を聞いてから意識を飛ばした。

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