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エレノアをかばったロクロウのお話



咄嗟に動いたことに後悔はしていないが、現状満足のいくことが出来ていない
受け身を取ったものの派手な攻撃を受け左腕から手にかけて大きく抉られているし、右腕も痺れている感覚が抜けない
つまりどちらの手も使える状況になく、良くて右手で飯を食えるかどうかだった。
業魔の俺は特に食事を摂らなくとも問題はないが、そういう問題ではない
手って失うと不便なんだと、腕自体が吹っ飛ばなくて良かったと思った。
回復には時間が掛かりそうで、辛うじて動く右手で後頭部を掻いた。

うーん、と考えた。
今の所皆に助けてはもらっているが、基本女性経由なのが複雑だ
それもそうで、聖隷であるライフィセットやアイゼンに接触は出来ない
となると同じ業魔のベルベットか、影響のないマギルゥかエレノアに用件を頼むことになる。

ロクロウ、と座っている俺に声を掛けたのはエレノアだった。
橙の結われた髪を揺らして来た彼女は、その直後に大きく頭を垂れた。
「油断していたばかりに!ごめんなさい!!」
「おいおい、よせよ、不便なだけでそこまでは痛くはないし」
とは言ったが痛いものは痛い、けれどもさすがに追い詰めるような

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はっと目が覚めた時には昼過ぎで、何となく気怠く動くのも躊躇われた。
業魔といっても元は人間だ、そこの釣り合いがたまに取れないのが難しいところだ
そもそも業魔になってからは飯も睡眠も正直要らないのである。
そうはいっても心水は飲みたいし、焼き菓子や肉なんかも食べたい
はあ、と軽く息を吐いて上体を起こした。はずだったのだが

「ん?」
身体が動かす、指を動かす事さえできない
何が起きている?歯は食いしばれず、腹に力も入らない
(参ったな)
このまま横になることくらいしか出来ず、心の中で唸る。
するとノックの音がし、おーいロクロウ?とマギルゥの声がした。
いつまでも寝ぼけている俺を起こしにでも来たのだろう
それにしてもあまり声も出ず、応答したくてもこの声の大きさでは声が届かない
(これは本当に参ったぞ)
うーん?と返事のない俺にマギルゥは不思議そうな声を出す。
もしかしてこのままになってしまうのかと内心焦り、息を大きく吸い込んだ。
「っ…マギルゥ!!」
「おお!?なんじゃ、起きてるなら返事くらいせい」
扉越しに呆れられるような反応を感じたが、呼ぶのが精一杯でそれ以外喋れそうにない
兎にも角にもマギルゥに状況を知ってもらえなければマズい気がした。
「ま…ギルぅ……ッ!」
「む?そんなに呼ばれても困るぞ、早く起きてこ〜い」
「入れっ…!」
俺が懸命に絞り出した声に、さすがのマギルゥも違和感を感じたらしく茶化すのをやめた。
「大丈夫か?入るぞ?」
念の為マギルゥは再度ノックをし、ゆっくりと入って来た。

「どうした?具合でも悪いのかえ?」
それに応えられず、俺は



起きられないロクロウと起こしにきたマギルゥのお話

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ふーっ……と息を吐き出す。これを嗜み始めてどのくらい経ったか、よく覚えていない
指で挟んでいるものは先端から煙を出し、静かに燃えている。風が緩く流れると煙も同じように乗り、同時に灰も飛んでいった。
もう一度、とそれを咥えようとした時に影が生まれて別の柔らかさを生んだ。
私の手ごと掴み、それを取られたかと思えば握り潰された。
「……私の愉しみを奪わないでもらえるかな」
へし曲がって床に落ちたそれを眺めてから顔を上げると再び交わされた。
「っく……」
「人の話を聞かないと次はないよ」
首にそっと糸をしのばせ、絞め上げることなど私にとって朝飯前だ。全く、ことごとく私のやることを遮る悪魔の考えが私には分からない

フードから覗くギラリとした緑の目が笑う。参ったぜ、とか言っておきながら反省の色は見えない。
「仕方ねえだろ?お前が俺をそうさせてんだからな」
「何でも私のせいにしないでくれよ」
はあ、とため息をつきながら目当ての物へと手を伸ばすがそれは彼の鋭い爪の付いた手によって遮られた。
ころころとそれは転がって地面にいくつか散らばった。
「そんなもん吸うんじゃねえよ」
明らかに不機嫌で、それを隠そうともしない。それはいつものことだし私は気にならないが、この悪魔はすぐに喧嘩をおっ始める存在だからなぁと私の思考は呑気だった。

「馬鹿にする前に君も一度吸ってみたらどうだい?そうすれば私の気持ちが分かるかもね」
そう告げると彼はむ、と興味があるような表情に変わる。でも臭いはそんなに好きじゃなかった、と彼は眉を顰めながら転がり落ちたそれを拾った。
「火を起こすから、ほら、咥えて」
渋々口に咥え、火を先端に付けるがなかなか灯らない。咥えながら軽く吸って、と伝えると彼は不思議そうに従った。
そうして火は付いたが、咥えるだけで何もしない彼に私は思わず笑ってしまった。
「何してるの、吸わないと」
「……?」
「口の中に煙がたまったら、それを吐き出すんだよ」
それを口から離し、はあ〜っと吐き出している。まるで獣のような、ドラゴンが炎を吐き出すようなイメージだ。

「……不味い」
「本当に?私はこの銘柄、好きなんだけどな…そもそも合う合わないがあるし、無理に吸うようなものじゃないけどね」
でもそれなら勿体ないから貰うよ、と苦そうな表情をしている悪魔から受け取った。
「俺には分かんねえな、それの良さが……ただ、馬鹿にするのはやめる」
「そう?ならこの行為には価値があったってもんだ」
とはいえ、私自身も気分転換かつ思い出したら吸っているようなものだしそこまで吸う方ではない
いつもと違うのは、この悪魔からの妨害から興味を引くことが出来たというところだ

じ、と視線を感じるが私は気にしない。これもいつものこと、吸って吐いての繰り返しを彼は飽きずに見てくる。
「……やっぱり腹が立つな」
「…あ」
ぱし、と手をはたかれそれは軽く飛んだ。行方を目で追っている間に影が出来てまた塞がれる。
「っ、……!」
がちゃり、ケースと砂利が擦れる音がした。深いそれに思わず私は呼吸を忘れ、彼をなんとか押し出した。
「っはぁ…!ッ……死ぬ、かと思った…」
「おいおい、今更それはないだろ」
キスされて、呼吸を忘れるなんて。いや、私は嗜んでいたからこそ呼吸が…… なんて言い訳をしたい
「あと、おいしくないからやめろ、それ」
「はあ?断るよ」

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